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AI(人工知能)教育

人工知能が大学入試センター試験模試「世界史B」に挑戦!
その結果から見えてきた人間とAIのこれからの関係

2017年2月8日

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2021年に東京大学入試を突破する――。このような目標を掲げた大学共同利用機関法人 情報・システム研究機構 国立情報学研究所(NII)の人工知能(AI)プロジェクト「ロボットは東大に入れるか」の研究活動に参加した日本ユニシスは、大学入試センター試験の模試「世界史B」に挑戦し好成績を収めた。この取り組みから見えてきたAIの「現実と課題」とはいかなるものか。そこから人間とAIのこれからのあるべき関係を展望する。

センター試験模試「世界史B」にAIで挑戦
人間の受験生を上回る好成績を収めた

これまで人間にしかできなかった様々な知的な活動を、コンピューターにより精度高く、より効率的に行わせることがAIの目的とされている。

ただ、当たり前のことだが、人間とAIは同じではない。この先、AIの本格的な実用化やさらなる基礎研究を深めていくためには、まず人間とAIの本質的な違いを明らかにし、AIにできること、向いていることを見極めることが重要となる。

そこでNIIが中心となり、様々な大学やIT企業の共同参画によって進められているのが、「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトである。昨年度までの第1フェーズでは「大学入試センター試験で高得点をマークすること」を目標に、プロジェクトメンバーはそれぞれ担当する試験科目の“突破”に取り組んだ。

日本ユニシスがチャレンジしたのは「世界史B」だ。結果から述べると、大学入試センター試験を想定した「進研模試 総合学力マーク模試」において、人間の受験生の平均点を30点上回る77点(偏差値66.3)という好成績を収めることができた。

センター試験模試世界史Bの結果

一般常識を前提とする問題は
AIにとって非常に困難

そもそも日本ユニシスが世界史Bを選んだ背景には、どんな狙いがあったのだろうか。

大学入試センター試験の数ある科目の中でも世界史Bは、「長年培ってきた自然言語(人間が普通に話している言語)の処理に関する研究成果と知見を、最大限に生かすことができるベンチマークとして適切」と考えられたからである。

日本ユニシス 総合技術研究所
未来環境室 小林実央

日本ユニシス 総合技術研究所 未来環境室の小林実央は、これを分かりやすく示す例として、「パンはパンでも、食べられないパンは?」「2世紀中ごろ、クシャーナ朝のカニシカ1世が都を置いたのはどこか?」という2つの質問を挙げ、「どちらが簡単でしょうか?」と問う。

普通に考えると簡単なのは、幼稚園児でも答えられそうな「なぞなぞ」である前者だろう。フライパン、ジーパンなどの答えを思いつく。

だが、AIにこれは当てはまらない。「フライパンやジーパンは食べられない」という“一般常識”を備えていないと答えられない問題は非常に苦手で、後者のほうがはるかに簡単なのだ。「教科書に必ず答えが記載されていて、しかもその答えが1つに決まり、曖昧さがないことがその理由です」と小林は言う。

実はここに現在のAIが抱えている「現実と課題」がある。

限られた特定領域の問題を適切にAIに認識させれば、かなりの高精度で解答を導きだすことができる。まさに世界史Bがこのケースだったわけだ。世界史Bの問題文の中には正解につながるキーワードが、必ず教科書に書かれているとおりの表記で出てくる。AIにとっては非常に学習しやすく、理解しやすいのだ。

ところが同じ大学入試センター試験の科目であっても、物理や数学の問題になるとそうはいかない。「計算自体は得意であっても、その前段階で日本語や図形で表現された問題文を数式などに直さなければなりません。これがAIにとっては困難で自動化することができず、人間に頼らなければならないのです」と小林は語る。一般常識の習得や日本語の詳細な読解、連想、推論、抽象化などをAIに行わせようとすると、途端にハードルが高くなってしまうのである。

人間とAIが得意分野を補完し合う
新たな社会の実現を目指す

日本ユニシス 総合技術研究所
生命科学室 宮下洋

「現在のAIにあらゆる物事を理解させられるわけではなく、『なんでもできる』存在ではありません」と、日本ユニシス 総合技術研究所 生命科学室の宮下洋も語る。

「例えば人間は、イラストで描かれた顔、さらにはメールやチャットでよく使われる顔文字などを見ても、それが人間の顔であることを理解し、笑っている、泣いている、怒っているといった表情まで読み取ることができます。「なぜそんなことが可能なのか、人間の認識能力の仕組みそのものが解明されていません。このため、AIに同じことを行わせようとしたときに、何を、どんなふうに学習させればよいのかも分からないのです」。

主に言語(文書)や画像、音声などに適用され、データが持つ特徴を自動的に発見するディープラーニング(深層学習)でもまだまだ足りないものがある。様々なアイデアが提唱されているものの、決め手となるような手法は見つかっておらず、AGI(Artificial General Intelligence:汎用人工知能)への道程は遠い。

もちろん、だからといって現在のAIが実用レベルに達していないわけではない。今回の世界史Bへのチャレンジでも実証されたように、AIならではの卓越した能力が発揮される分野は確実に存在している。「人間にとって簡単な問題と、AIにとって簡単な問題は違います。まずこの点をしっかり理解した上で、AIにはAIに向いた条件を持った問題を任せることが肝要です。適切な解き方を教えられれば、AIは人間以上の成果を発揮するのですから」と、小林は繰り返し訴える。

ここに人間とAIのこれからのあるべき関係を読み解くヒントがありそうだ。

「今後もさらに基礎研究を進め、人に寄り添って考えさせる、人の知的活動を支援するAIの高度化を目指します」と小林と宮下は語る。人間の仕事を奪い取ることがAIの目的ではない。人間とAIがお互いに得意な部分を補い合っていく社会を実現することが、日本ユニシスにおけるAI研究の一貫したアプローチである。

日本ユニシスの人工知能研究

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