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イノベーション異業種連携

完全な無人運転へ
愛知県が描く「自動走行」の未来図
実証実験進む「自動走行実証推進事業」の現在とこれから

2017年6月8日

人の運転操作が不要な「自動運転車」に関する話題が、世界的な盛り上がりを見せている。実用化を目指して先行する欧米諸国に対し、やや後れを取った感のある日本も自動運転を成長戦略の要素と位置付け、急ピッチで環境整備を推進中だ。政府が定めた国家戦略特区の一つである愛知県では、これまで企業、大学などが個別に実施していた自動走行の研究開発事業をスケールアップし、官民挙げての大型プロジェクトを展開している。

話題の自動走行技術を磨くフィールドを整備
「自動車王国」愛知県の取り組み

「自動車王国」と呼ばれる愛知県。県内には有名メーカーの本社、工場をはじめ傘下の子会社、部品会社などが林立し、自動車産業の集積率は日本一だ。また、自動車の保有台数も全国トップであり、県民のモータリゼーションに対する意識が高いことでも知られている。

現在、自動車業界で最大のトピックスになっているのが、ドライバーを乗せずに走る「自動走行」である。人が操作することなく自動車が自律的に走行する仕組みは、古くから未来の自動車像として描かれてきた。敷地内の決まったコースを巡回する無人ダンプカー、パトロールカーなどが開発されているが、コンピュータやAI(人工知能)の進歩により、公道を一般の自動車と同様に走ることが可能になりつつある。ドライバーへの支援を目的に開発された衝突被害軽減ブレーキ(自動ブレーキ)、速度を一定に保つクルーズコントロール、コース逸脱を防ぐステアリングアシストといった機能は自動運転を実現するための要素であり、将来的には全ての運転操作を自動化することが期待されている。

愛知県 産業労働部産業振興課
主査 那須規宏氏

「自動車産業の集積地として、実用化をリードする存在になることが目標です」と愛知県産業労働部産業振興課で主査を務める那須規宏氏は意気込みを語る。同県では政府が掲げる成長戦略の一つとして平成27年に募集が行われた「近未来技術実証特区」選定に際し、「自動走行実証」「リハビリ遠隔医療・ロボット実証」「無人飛行ロボット実証」の3プロジェクトを提案。同年8月に区域指定を受けた。

これまで企業や大学が主体となり行われていた自動走行実験を検証すると、実施に当たって警察や道路管理者など関係機関との折衝に大きな負担がかかっていることが分かった。このため、県がワンストップの窓口としてこれらの業務を担当することで企業、大学の負担を軽減し、実験効率化と技術開発を支援することとした(ワンストップ窓口の詳細はここを参照)。

アイサンテクノロジー株式会社
MMS事業本部 3Dソリューション事業部
部長代理 福山尚久氏

平成28年には「自動走行実証推進事業」を立ち上げ、県が主導する形で公道を用いた実証実験を実施した。事業開始に当たり、県では高精度3Dマップの作成を手がけるアイサンテクノロジーに業務の取りまとめを委託。同社は名古屋大学、アイシン・エィ・ダブリュ、SBドライブ、ZMPと共同でチームを編成し、県内の公道をフィールドとする実証実験の検討を行った。

「研究開発企業として、自動運転の持つ将来性には期待していました」と語るのは、アイサンテクノロジーMMS事業本部 3Dソリューション事業部の部長代理である福山尚久氏だ。同社は設立以来、主に測量や設計分野のプログラム開発を手がけているが、その中にモービルマッピングシステム(MMS)と呼ばれるものがあった。これは走行しながら周辺情報を高精度、効率的に把握するシステムで、道路の形状や標識、ガードレール、路面文字、マンホールなどのデータを3次元位置情報として取得することが可能だ。同社では情報収集用車両の販売を行う一方、実際にMMSを使った業務展開を計画。折しも公募中だった愛知県による自動走行の社会受容性実証実験事業への参画を決めた。

平成28年度の愛知県自動走行実証プロジェクトの体制図

市街地、山間部、離島など多様なコースを選定し
県内15市町で「レベル3」実証実験を展開

自動運転は、ドライバーが関与する程度によっていくつかのレベルが定義されている。現在、多くの国では以下のように分類されている。日本政府は、2020年までにレベル3の実用化を達成したいと表明しており、現在このレベルの見通しが検討されているところである。

・レベル1 加速・操舵・制動のいずれかの操作をシステムが行う
・レベル2 加速・操舵・制動のうち複数の操作を一度にシステムが行う
・レベル3 加速・操舵・制動を全てシステムが行い、システムが要請したときのみドライバーが対応
・レベル4 加速・操舵・制動を全てシステムが行い、ドライバーが全く関与しない

(出所:官民ITS構想・ロードマップ2016)

愛知県が近未来技術実証特区で行う事業として平成28年度に計画した実証実験は、レベル3に位置付けられる。同県では、実験用の道路が利用可能な自治体の参加を募り、あま市・安城市・一宮市・犬山市・岡崎市・春日井市・刈谷市・幸田町・設楽町・田原市・豊明市・豊田市・長久手市・南知多町・みよし市の15市町から協力の申し出を受けた。

平成28年度最初の自動走行実証実験は6月24日、幸田町で開催された。愛知県中南部、西三河地方に位置する同町には多くの自動車関連企業が立地し、町が独自で町内主要道路の高精度3次元地図を整備するなど、本事業に対する理解・関心が高い地域である。実証実験に当たっては「交通弱者と町の拠点をスムーズにつなぐ」という行政目標を掲げ、鉄道駅(JR相見駅)と地域拠点(永野ちびっこ広場)を結ぶ2.3kmの区間が設定された。当日はあいにくの大雨に見舞われたが、一部区間を除いておおむね問題なく自動走行が行われ、順調な滑り出しとなった。

以後、市街地、山間部、離島など、様々な環境下での実験が計画され、平成29年2月までに15市町全ての自治体で自動走行を成功させている。


南知多町で行われた自動走行実証実験の模様(写真提供:アイサンテクノロジー)

自動走行を実現するためには企業や研究機関をはじめ、業界や立場を超えた多くの関係者による連携、協力が必要なことは言うまでもない。本プロジェクトは、協業(エコシステム)の中心に位置するのが自治体(愛知県)であり、その委託を受けた地元企業(アイサンテクノロジー)が事業を進めている。本実証実験は大規模なスケールを持つにもかかわらずスムーズな運営・展開が行われている。この点について福山氏は「当社は自動車業界に参入したばかりですので、愛知県、市町、名古屋大学、アイシン・エィ・ダブリュの各担当の皆さまに多大なご支援をいただいたからこそ、プロジェクトを円滑に進めることができたと感じています」と語る。

今回の実証実験には自動走行研究で豊富な実績を持つ名古屋大学をはじめ、カーナビシステム開発のアイシン・エィ・ダブリュ、自動走行によるモビリティサービスを手がけるSBドライブ、ロボット技術を用いた次世代自動車を研究するZMPといった多くの企業が参画している。「実験を成功させるためには、お互いがそれぞれの事業領域を理解し、尊重し合うことが重要です」(福山氏)

福山氏は今回の実験を通じ、これまで情報として得るのみであった自動運転に関する知見が、自ら実地で経験することで確かなノウハウになったと指摘する。公道での運転操作は周囲の状況に合わせて常に変化し、決まったスタイルは存在しない。実用化の推進には、何よりも経験の積み重ねが重要であることが改めて確認されたという。

実証実験の成果について、那須氏は以下のように語る。「平成28年度の実験成果を振り返ると、技術面では自動走行に欠かせない高精度3Dマップを整備できたことが大きいと思います。これにより、今後企業や大学などの実証実験が行いやすくなることが期待できます」

自動運転用の高精度3Dマップの例



信号や横断歩道、車が通るレーンなどの位置を記録していることが分かる

社会制度の面では、119人の住民がモニターとして実験車両に同乗し、実際に自動走行を体験した。本プロジェクトは技術向上だけではなく、地域住民にその有効性をアピールすることも重視されている。モニターからは自動走行の進歩に期待する声とともに、実験の安全性や事故発生時の対応などに関する心配の声が寄せられた。

また、プロジェクト進行に伴うビジネスの部分では、実験に使われる自動走行制御システム「Autoware」の性能向上が図られた。本システムは名古屋大学などが開発したものだが、仕様が公開されたオープンソースであることから、今後幅広く利用されることになると考えられる。愛知県としては一連の実証実験による性能向上で、さらなるシステム開発の進展を期待している。

社会課題解決を目指し
高齢化対策、交通事故抑止にも注力

最後に、2年目を迎えた実証実験の課題について聞いた。「自動走行は“究極の安全技術”と呼ばれていますが、完全な無人運転を実現するためには改善すべき点が多々あります。今後も多くの方々に自動運転の利便性を知っていただくとともに、交通弱者や高齢化といった社会課題を解決する手段としての技術開発、そして交通安全に対する啓発を続けていきたいと思います」と那須氏は愛知県の今後の取り組みを説明する。愛知県が取り組む平成29年度の実証実験には、昨年度を大きく上回る31の市町村から参画の応募が寄せられている。

アイサンテクノロジーは引き続き高精度3Dマップの作成技術向上に注力する構えだが、興味深いのは2016年6月にアイサンテクノロジーを含む地図・測量メーカー6社(三菱電機、ゼンリン、パスコ、インクリメント・ピー、トヨタマップマスター)が大手自動車メーカーと共同で設立した“ダイナミックマップ基盤企画株式会社”の取り組みだ。これは国土地理院が発行する地形図のように、自動走行に必須の高精度マップを全国規模で集積し、関係する全ての企業、研究機関が利用できるようにすることを目指す組織で、現在は主要な高速道路、自動車専用道路の地図作成を進めている。

自動走行に関するトピックスには、今後も注目する必要があるだろう。