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イノベーション資源エネルギー

化石燃料に代わる新たなバイオ燃料を生み出せ――藻類産業創成コンソーシアム
食料と競合せず、土地利用でも競合しない藻類は「第3世代のバイオマス」

2017年1月4日

全体で光合成を行う藻類バイオマスの潜在的なオイルの生産能力は、陸生油脂植物の数十~数百倍と桁違いだ。それでいながらトウモロコシや大豆、サトウキビなどの食料と競合することがなく、耕作地も必要としない。また、下水浄化施設に集められる下水や発電所から排出されるCO2を藻類バイオマス生産に用いることができるなど、藻類バイオマスは我々の社会が抱える課題を「一石三鳥」で解決する可能性を秘めている。

藻類バイオマスは有望な再生可能エネルギー

筑波大学 教授
藻類バイオマス・エネルギーシステム開発研究センター センター長
渡邉信氏

化石燃料は採取可能な量が限られており、やがては枯渇してしまう。また、現在のようにどんどん燃やし続けたのではCO2を排出するばかりで、地球温暖化に歯止めをかけることができない。そこで必須となっているのが、再生可能エネルギーの開発と活用である。

ところで再生可能エネルギーというと、どんなものを思い浮かべるだろうか。恐らく太陽電池や風力、水力、地熱といったところだと思う。だが、再生可能エネルギーはそれだけではない。植物から作られるバイオマスも立派な再生可能エネルギーなのだ。確かにバイオマスを燃やす時点ではCO2を排出するが、再生産する際に大量のCO2を“原料”として使用するため、エコロジーなサイクルを築くことができるのである。

そして今、「第3世代のバイオマス」として世界的に注目されているのが「藻類(そうるい)」だ。日本では、筑波大学の名誉教授・特命教授である井上勲氏と、筑波大学の教授であり藻類バイオマス・エネルギーシステム開発研究センターのセンター長を務める渡邉信氏が、その研究開発をけん引している。

そもそも藻類にはどんな魅力があるのだろうか。渡邉氏は次にように語る。

「藻類は全体が“葉”のようなものでできており、まさに全身で光合成を行うため、オイルの潜在的生産能力は、陸生油脂植物の数十~数百倍と桁違いなのです。それでいながら第1世代のバイオマスであるトウモロコシや大豆、サトウキビなどの食料と競合することがありません。また、生産に耕作地を必要としない(休耕地は利用可能)ため、第2世代のバイオマスである森林資源や農業廃棄物、エネルギー作物などの農作物と土地利用でも競合しません。さらに石油を完全に代替できる炭化水素物を産生する藻類、海水で培養できる藻類が存在することも明らかになっています」

あらゆる産業の総力を結集することが必要だ

筑波大学 名誉教授・特命教授
藻類産業創成コンソーシアム 理事長
井上勲氏

聞けば聞くほど“いいことずくめ”の藻類バイマスだが、ならばなぜ、これまで日本ではその技術開発や実用化が進んでこなかったのだろうか。「藻類バイオマスの活用には多くの研究分野、あらゆる産業分野の連携が不可欠なのです」と語るのは井上氏である。

他のエネルギーに対する藻類バイオマスのコスト競争力を高め、安定供給を実現するためには、下図に示すようなプロセス、ならびにそれを支える多様な専門分野の基礎研究とサイエンス、エンジニアリングが必要となる。「ご存じの通り日本は個々の分野では優れた知見や実績、ノウハウを持っていますが、それを束ねるものがなかったのです」(井上氏)

エネルギー省(DOE)が中心となって研究機関や産業界を取りまとめ、藻類を原料とするバイオマス燃料の実用化に向けたプロジェクトを推進している米国などと比べ、これは日本の根本的な弱点となっていた。

だが、ようやくこの課題が解消され、日本も藻類バイオマスの先進国を追い上げていくことができる体制が整ってきた。「産業界が確固たる協力体制を敷き、基礎研究から産業化までの事業化検討を補完的に行うことは、藻類産業の発展のために不可欠」という方針が国から示され、この社会的な要請を受ける形で2010年6月に「藻類産業創成コンソーシアム」が設立されたのである。そして2013年4月に同コンソーシアムは一般社団法人化されることとなり、理事長として井上氏が就任した。

2015年9月の時点で同コンソーシアムに参画する機関会員は73社と3つの自治体に拡大し、藻類産業創成に関わる可能性の高い多様な業種の企業と行政、そして筑波大学 藻類バイオマス・エネルギーシステム開発研究センターによる「産官学」のコラボレーションが可能となったのである。

具体的に藻類産業創成コンソーシアムにおいて、どんな活動が行われているのだろうか。

まずは藻類の産業利用および研究・技術開発に関する課題の探索・調査がある。例えば農林水産省による「平成23年度農山漁村6次産業化対策事業」「緑と水の環境技術革命プロジェクト事業」などが、その一環として行われた。

「日本で藻類バイオマスを産業化につなげるために、どんなことを、いつまでにやらないといけないか。日本の様々な企業が持っている世界トップレベルの知見や技術を徹底的にリサーチして、日本で最初のロードマップをつくり上げました」と渡邉氏は語る。

また、各種セミナーやシンポジウムなども積極的に開催し、これをきっかけとして国際連携を加速させている。さらに東日本大震災からの復興も兼ねた研究開発事業として、福島県南相馬市の耕作断念地を有効活用する「第1期 福島藻類プロジェクト(福島再生可能エネルギー次世代技術開発事業)」を2013~15年にかけて実施した。

藻類バイオマス活用バリューチェーンと関連分野出典:藻類産業創成コンソーシアム「コンソーシアムのこれまでの活動と今後」

他のエネルギーと競い合えるコストを目指す

藻類産業創成コンソーシアムに先立ち、筑波大学には2009年の補正予算で藻類バイオマス生産のための基盤的研究施設、設備となる「藻類バイオマス・エネルギーシステム研究拠点」が開設されている。併せて、つくば国際戦略総合特区には野外フィールドも整備された。

筑波大学のキャンパス内に設置された開発研究センター(左)と野外フィールド(右)

この研究拠点と野外フィールドの2つの施設が、第1期 福島藻類プロジェクトで重要な役割を担ったのである。緯度の高い南相馬市では日照時間と温度が不足するため、あえてその場所の自然の中にある雑藻集団を活用。「温帯における土着の藻類集団によるバイオマス生産モデルを確立することができました」と渡邉氏は語る。そして、「当初の目標値としていた藻類バイオマスの年間生産量は1ヘクタール当たり30トンでしたが、現在ではその3倍以上となる1ヘクタール当たり100トンを実現しています」と強調する。さらに2016年12月に稼働を開始した「水熱液化法(HTL)」と呼ばれる技術に基づく装置を活用することで、生産された藻類バイオマスの40~50%をバイオ原料に変換することを目指すという。

こうした予想以上の手応えを得た第1期 福島藻類プロジェクトの成果を受け、2016年から3年間にわたって進められている「第2期 福島藻類プロジェクト(土着藻類によるバイオマス燃料の実用化技術開発)」では、下水浄化施設に集められる下水と発電所から排出されるCO2と排熱を藻類バイオマス生産に用いる計画だ。「この“統合”の有用性を実証できれば、社会インフラのあり方を大きく変えるとともに、他のエネルギーと十分に競争可能なバイオ原油のコストを実現できると考えています」と井上氏は語る。

藻類バイオマスから作られた液体燃料は化石燃料と同様にプラスチック、合成繊維、合成ゴム、塗料・溶剤、合成洗剤などの化学製品の原料として利用できるほか、藻類そのものも医薬品やサプリメント、食料、飼料・肥料などに応用することが可能である。すでに製品化されたものもあり、藻類から抽出されたオイルで作られたハンドクリームは優れた保湿効果があることで人気の商品となっている。

藻類から抽出したオイルで作られたハンドクリーム「モイーナ」

人々と社会に新しい夢と未来をもたらすイノベーティブな研究開発として、ぜひ藻類バイオマスの実用化に向けた取り組みに注目してほしい。

藻類産業創成コンソーシアム

https://algae-consortium.jp/

2010年6月に藻類産業創成コンソーシアムを設立し、2013年4月に一般社団法人に移行。2016年12月現在、藻類産業創成コンソーシアムの正会員は100(機関会員および個人会員)を超え、この分野で日本最大のグループとして成長している。藻類の産業利用やそれに関わる技術開発課題の探索、藻類に関する国内外の調査および情報の収集・提供・交換、そして会員企業が参画する研究開発などの活動を通して藻類産業の早期確立を目指している。現在南相馬市において国内最大規模の6レーンの50mプールに匹敵する藻類培養プールを用いて、実用化に向けたプロジェクトを進行している。