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AI(人工知能)教育

AIは教育をどう変えるのか(前編)
産学連携で進む「AI×教育」研究の最前線

2017年2月24日

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「AI」の文字を新聞や雑誌で目にしない日はないが、AIが私たちの生活や産業に具体的にどのような影響を与えるのかについては、未知数の部分が多いのが現状だ。社会の重要なインフラの1つである「教育」にAIがもたらす影響を本格的に探る先進的なプロジェクトが、現在進行している。

「教育」をめぐる
画期的コラボレーション

この数年、産業、サービス、農業などあらゆる分野で活用が模索されているAI(人工知能)だが、こと教育とAIの関わりをめぐる論議は日本ではまだほとんど進んでいない。東京学芸大学とリクルート次世代教育研究院の「AI×教育」をテーマとした共同研究は、その意味で極めて先駆的な取り組みである。

教員養成の専門機関である東京学芸大学と、「学び」に関する調査研究を続けているリクルートマーケティングパートナーズのシンクタンク、次世代教育研究院。この2者による共同研究プロジェクトがスタートしたのは、昨年(2016年)10月のことだ。AI時代における「生きる力」とは何か、その力を身につけるにはどんな「学び」が必要なのか、またそれを可能にする教員養成のあり方とはどういったものか──。それらの問いを明らかにしようというのが、このプロジェクトの狙いである。

東京学芸大学には教育に関する長年の基礎研究の蓄積があり、教員養成のノウハウがある。また、幼稚園から高校まで11の付属教育機関、つまり「現場」を持っている。一方、オンライン学習サービス「スタディサプリ」を展開するリクルートマーケティングパートナーズには、「学び」に関する多数のデータの蓄積があり、研究結果を具体的なプログラムやサービスにつなげるビジネスノウハウがある。教育をテーマとした産学連携において、これ以上のコラボレーションはないといっていいだろう。

東京学芸大学 副学長
松田恵示氏

「現在、東京学芸大学には総合教育科学、人文社会科学、自然科学、芸術・スポーツ科学の4つの学系があり、その下に様々な専門分野があります。その各専門分野の先生十数人にこのプロジェクトに参加してもらっています」

そう説明するのは、自身プロジェクトのメンバーであり、社会学分野の教員でもある松田恵示副学長だ。現在は月に1回のペースで会合を持ち、情報を共有する作業を進めている。リクルート側がAIに関する最新の知見を持ち寄り、大学側がこれまでの教育研究の成果や教育現場の実情に関する情報を提供する。その交流をもとに、各分野の教員が「AI×専門分野」のアイデアをまとめながら、「AI時代の教育」に関するトータルなビジョンをプロジェクト全体でつくっていく。それが今後の見通しだと松田氏は説明する。

AIは教員にとって
敵か味方か

「教育の未来を描くこと」がこのプロジェクトの本質的な目標だが、産学が共同して教育の未来を探究しようとするなら、テーマとすべき論点は多数ありうる。なぜ「AI」がテーマでなければならないのか。松田氏の答えは明快だ。

「AIには人類の歴史を変えるほどの力があると考えられるからです。すでに広く議論されているように、多くの分野でAIが人間の活動に取って代わるといわれています。教育の領域にはAIでは代替できないものがかなりの部分残るのではないか、という意見もありますが、私は違った見解を持っています。教育活動の多くは、おそらく将来的にはAIによる代替が可能になると考えています」

例えば、歴史の年表や人物に関する知識がある。かつて、社会科の教師はその多くを知らなければならなかったし、受験に臨む生徒はそれらを暗記しなければならなかった。しかし、そのような知識の記憶はAIに任せてしまい、必要なときに取り出すことができればいい。松田氏はそれを「知識や能力の外部化」と表現する。

「電卓が開発される前は、計算は人間に必須の能力であるといわれていました。しかし、現在はちょっとした計算にもみな電卓を使うようになっています。つまり、能力が外部化したということです。それが問題であるとは今は誰も思ってはいません」

では、教育現場における「人間的活動」に関してはどうか。例えば、小学校や中学校において、保護者とのコミュニケーションは教師の重要な仕事の一つだ。それを「外部化」することは難しいのではないか。

「必ずしもそうではないと考えます。もちろん、人対人のコミュニケーションが重要であることは変わりませんが、例えば、一般にモンスターペアレンツと呼ばれる保護者にどう対処すればいいかという最善解をAIは導き出すことができるでしょう。AIが持つ安定的対応力をコミュニケーションに活用することは大いにありえます」(松田氏)

リクルートマーケティングパートナーズ
リクルート次世代教育研究院 院長
小宮山利恵子氏

ならば、教師という仕事の職務の領域は現在よりも縮小し、教師の数自体も減っていくことになるのだろうか。このプロジェクトの中心メンバーの一人、リクルート次世代教育研究院の小宮山利恵子院長は言う。

「AIに関する研究を進めれば進めるほど、自分たちの職が奪われることになるのではないか。プロジェクトに参加されている先生の中にも、そんな危機感を抱いていらっしゃる方が少なくありません」

「AI×教育」の研究が結果として明らかにするのは、「AI>教師」という未来の構図なのだろうか。それとも、AIが進化し、普及しても、教育はあくまで人間固有の営みとして残っていくのだろうか。(後編に続く

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