close

イノベーション論説

ICT企業は、今こそエコシステムの触媒機能を果たすべし
ビジネスエコシステムの新潮流を読む:第2回

2016年10月4日

デジタルビジネスの時代のエコシステムはどうあるべきなのだろうか。日本のICT業界を長年にわたって見てきたジャーナリストであり、現在は「IT Leaders」を発行するインプレスの編集主幹でもある田口潤氏が、変革の時代におけるエコシステム形成の必然性や、ICT企業に求められる役割について持論を披露した。

Text:田口潤

「破壊的変革」の荒波をどう乗り越えるか

インプレス
IT Leaders 編集主幹
田口潤氏

自社で完結するのではなく他社と共同で何かを行う、共生できる形で何かを追求することをエコシステムと定義したとき、それは実践するほうがいいというより、実践しなければならないことです。よほど突出した技術なり製品なりを持っていないと、単独で生き残るのは困難と考えるべきでしょう。

なぜか? 今、進んでいるのは、幾何級数的に進化するICTがもたらす破壊的な変革です。例えば、急ピッチで進化する3Dプリンターは今や高精度の金属製品や食品までも出力できるようになりつつあります。出力するためのデータとトナーである原料さえあれば、どこでも必要なものを製造できる時代が来るでしょう。

高価な設備で高品質の製品を量産できる大規模工場は、大企業の優位性を象徴する存在ですが、それが不良資産に変わる日が来るかもしれません。AI(人工知能)やIoTといった破壊的テクノロジー、あるいは金融業を巻き込むFinTechや教育を変えるEdTech、製造のManuTechといったムーブメントが破壊的変革を牽引し、「今日の延長線上に明日はない」と言える状況を生み出しているわけです。

ところが日本をはじめとする先進国の大手企業は大量にモノを生産したり、品質や機能を高めたり、あるいはコストダウンが得意です。それがコアコンピタンスであり、そのために組織体制や人的資源を最適化してきたわけですから、当然ですね。半面で、いくつかのことを捨て去ってきました。自由な発想や創造性、不確かなことにチャレンジする精神などです。

1つの組織の中で皆が共通の目標に向けて邁進するためには、組織の枠を超えるような自由な発想は悪であり、創造性を排除して秩序や前例を重視するのは当たり前のことです。不確かなことを手掛けるよりも、確実に収益を生み出すことも重要です。しかし破壊的な変革の時代の中で、あるいは数年後がどうなっているのかさえ予測困難な時代において、求められるのは自由な発想や創造性を原動力とするイノベーションです。ここに矛盾があります。

このような矛盾をどう乗り越えられるのか、確実な答えはないと思いますが、しかし、秩序や前例を維持したままの企業が、またICTの知見を十分に持たない企業が、単独でこの変革の荒波を乗り越えられないことは確かでしょう。既存の何かを組み合わせ、これまでに存在しない何かを生み出すのがイノベーションであると考えれば、逆に複数の企業が連携してエコシステムを形成するのは必然、と考えられる理由がここにあります。

そして日本ユニシスのようなICT企業に期待されるのは、最新、あるいは次世代のICTに関する知見を生かしてエコシステムの触媒となることです。もちろん、これまで手掛けてきた効率化や合理化のためのICTは今後も大事です。しかし今日のICTは、これまで不可能だったこと、考えることさえできなかったことを可能にするポテンシャルを持っています。そのプロフェッショナルであるICT企業の真価が問われていると考えられます。

田口 潤(たぐち じゅん)

1984年、日経マグロウヒル(現日経BP社)入社。日経コンピュータ記者としてIT分野の取材に携わる。日経情報ストラテジー副編集長、日経ITプロフェッショナル編集長、日経コンピュータ編集長などを歴任。2008年、日経BP社を退社し、インプレスビジネスメディア設立に伴い、取締役編集長に就任。無料で読めるIT専門誌「IT Leaders」を創刊。現在に至る。ITスキル研究フォーラム代表、IT記者会理事、日本データマネジメントコンソーシアム理事、ITTVC理事などを兼務。