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AI(人工知能)ディスカッション

AIでビジネスはどう変わるのか
“未来の働き方”、そしてAI×IoTによるビジネスエコシステム実現に向けて

2017年7月13日

多くの企業において、AI(人工知能)は実践フェーズに入っている。AIがますます普及することを前提に、企業や個人は準備をしておく必要がある。AIによってビジネスや個人の働き方はどのように変わるのだろうか――。AI研究の最前線に立つ研究ディレクターを迎えて、パネルディスカッションが開催された。

日本が経験を積まなければ
米国企業の話をうのみにすることに

国立情報学研究所
社会共有知研究センター
センター長・教授
新井紀子氏

未来の働き方、ビジネスのあり方を巡って、AIの最前線に立つ研究ディレクターを招いたパネルディスカッションが日本ユニシス主催の年次イベント「BITS2017」で実施された。登壇したのは国立情報学研究所・社会共有知研究センター センター長・教授の新井紀子氏と人工知能学会会長を務める国立情報学研究所・総合研究大学院大学教授の山田誠二氏である。モデレーターは、日本ユニシスの総合技術研究所所長でCTOを務める羽田昭裕。

AIの研究と応用では米国が先行し、日本の創造性が十分に生かされていないのではないか。この点に関して、2人の研究者は危機感を覚えているようだ。新井氏は自らがリーダーを務める「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトの狙いをこう語った。

「このプロジェクトがスタートしたのは2011年です。当時、このままの状態で米国からAIブームが日本に入ってくると、米国企業の話を日本企業はうのみにせざるを得なくなるという課題意識がありました。ビッグデータを使って複雑なタスクを動かした経験が、日本の側にほとんどなかったからです。そこで、様々なタイプの知的タスクへのチャレンジを通じて知見を蓄積するとともに、AIの可能性と限界を見極め、その成果を社会に公開しようと考えました。これが、東ロボプロジェクトの目的の1つです」

人工知能学会 会長
国立情報学研究所・
総合研究大学院大学 教授
東京工業大学 特定教授
山田誠二氏

次に、研究者の意識面での課題を指摘したのは山田氏である。

「日本でも優秀な研究者は多いのですが、どちらかというと理論志向が強い傾向があるといわれています。最近進化の著しいディープラーニングは、理論としては飛躍的な革新はないと考えられており、研究者としてはこの世界に飛び込むのに躊躇があるのかもしれません。では、日本のAI研究をいかに盛り上げるか。応用研究については、産学連携から進めていくのが現実的ではないかと考えています」

こうした課題を克服するための努力が続けられている一方で、企業の現場には着実にAIが浸透しつつある。日本ユニシスもまた、ビジネスへのAI実装に注力している。羽田は「AIはこれからの暮らしや働き方を大きく変える可能性がある。そう考えて、私たちもAIへの取り組みを強化しています」という。その上で、次のように語る。

「当社は創業以来、エンタープライズシステムを提供してきました。今やモノ、カネ、情報が業界、企業を超えてつながる時代です。その一方で、人間や人間の集団はそれほどうまくつながっているわけではありません。それをつなげていこうというのが、ビジネスエコシステムのコンセプトだと考えています」

過剰な期待は禁物だが、人間や組織をグローバルでつなぐ上で、AIには大きな役割を担うことができるかもしれない。

AIを擬人化することで
人間との助け合いが容易に

AIやロボットによって姿を変える業務は、今後ますます増えるだろう。私たちはそんな時代を見据えて、準備をしておく必要がある。山田氏は組織や人事制度などの面で、大きな変化が起きると考えている。

「これまでは時空間的な軸と業務内容の軸によって、組織や個々人の役割が分かれていました。恐らく、今後はAIにできる仕事かどうかという軸が加わると思います。そんな状況を念頭に、組織の分業のあり方を考えておくべきでしょう」

人間とAIとの関係を考える上で、山田氏は1つのヒントを示す。

「他の道具との違いとして、擬人化されやすいのがAIの特性です。例えば、ある工場では人間型ロボットの頭にタブレットをつけて、笑顔などの表情を見せるようにしました。すると、工場の人たちがロボットに教えるときの、気持ちの入り方が違ってくるそうです。擬人化は、AI導入を成功させるための重要なポイントかもしれません」

ビジネス現場へのAI導入で、しばしば課題とされるのが「ブラックボックス化」である。仮にAIが最適解を導き出したとしても、結果に至るまで途中のプロセスが見えないので、意思決定者を説得することが難しい。特に企業として大きな判断を行う際、AIが推奨しているというだけでは経営者は納得しないだろう。最近はこのような課題の解決に向けた研究も進んでいるようだ。

「ブラックボックスを解消し、人に分かりやすく説明するという方向での研究も行われています」と山田氏は語る。まだ十分なものではないそうだが、AIのホワイトボックス化が進めばビジネス適用の領域も広がるはずだ。

一方、働く個人にとって気になるのが、雇用に対するAIの影響だろう。新井氏は次のように語る。

「AIが仕事を奪う、奪わないといった議論があります。しかし、それはAIの技術から答えが出るわけではありません。同じ出来事であっても、AIに仕事を代替された人は『奪われた』と思うでしょうし、逆に、AIによってメリットを得たと感じる人もいるでしょう。マクロ経済の視点で考えると、不本意ながら職を変えた人がどのくらいいるのか、仕事に対する満足度や賃金がどう変化したのか、それによって結果的に判断されることになるでしょう」

AI単独の性能だけでなく、
人間とAIの系全体を考える

ビジネス環境変化のスピードを、AIはさらに加速させる。企業のライフサイクルはますます短期化するだろう。新井氏はこう続ける。

「これからは、1人の人が何度も転職するのが当たり前になるでしょう。どこに所属しているかではなく、本人自身の人的資本の質が問われる時代です。その質を高めることが本人にとっても、社会にとってもこれまで以上に重要になります」

雇用の流動性は以前から日本の課題と指摘されてきた。AI時代を迎えつつある中、社会全体で真剣に議論をする必要がありそうだ。雇用の観点で見ると、新井氏は「AIが仕事を代替していく環境で、ハッピーに仕事を移動できる適応力が重要」と指摘する。

新井氏は研究の一環として、中学・高校生の論理思考能力や読解力などを調べているという。

「調査をしてみると、AIと同じような間違いをしてしまう中高生が非常に多い。これは由々しき問題です。仕事を変わる必要が生じたときに、適切な職場を見つけることが難しくなるからです。それは社会不安の増大にもつながるでしょう。AIの普及を前提とした教育が求められています」

AIに代替されない能力をいかに磨くか。その一方で、人々にはAIを使いこなす能力も求められるようになる。

「AI単独の性能には限界があります。AIは人間の仕事を助けるものです。AIの性能向上のみを考えるのではなく、人間とAIとのシステム、系全体としてのパフォーマンスを高めることを考えることが重要」と山田氏は見る。

人間とAIのより良い協調関係を実現するためには、両者のインタフェースがカギを握る。

日本ユニシス株式会社
総合技術研究所所長CTO
羽田昭裕

「アルゴリズムがどんどん進化している一方で、ユーザーインタフェースがそれに追いついていないとの指摘があります。言い換えれば、この課題を克服することで大きな成果を期待できることになります」と羽田は語る。

「例えば、画像認識の精度といったものは、将来的にはそれほど重要ではなくなる可能性があります。私自身は、アルゴリズムはやがてコモディティ化し、オープンソースのようなものになるのではないかと考えています。より重要になるのは、それをどう使うか。そのためには、ユーザーインタフェースの設計が極めて重要です。加えて、機械可読なデータをどれだけ確保するか、そのデータを入れたときにうまく動くようなシナリオをつくれるかどうか。こうした点について、しっかり考えていくことが大事だと思っています」(新井氏)

AIをビジネスや社会に役立てるためには、社会的な制度、企業の組織や働き方など多方面からの検討が求められる。多くの組織、個人が自分事としてAIを考える必要がありそうだ。