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イノベーション経営戦略

「社外との協業」でヒット商品を生み出せ――カルビー流オープンイノベーションの勘所
思い込みを捨て、多くの人と関わり、可能性を広げよう

2017年2月14日

「かっぱえびせん」や「ポテトチップス」「サッポロポテト」「じゃがりこ」など、子どもから大人まで愛されるスナック菓子を生み出し続けているカルビー。2011年には「フルーツグラノーラ」(1991年発売)の商品名を「フルグラ」と変えて大ヒットさせ、グラノーラを含む国内のシリアル市場もけん引している。そんな同社が、これまでにはなかった新商品を開発するために、新たな拠点をオープンしている。外部の風を取り込んだ研究開発が目指すものとは――。

異業種のスタッフが集結し
これまでになかった新商品を開発

2016年10月、カルビーの創業地である広島市に、新商品の開発拠点である「Calbee Future Labo(カルビー フューチャー ラボ、以降CFL)」が誕生した。同社は栃木県宇都宮市に研究開発本部を設けているが、CFLが従来の開発部門と大きく異なるのが、“社外との協働”をキーワードとしている点だ。

カルビー
Calbee Future Labo
クリエイティブ・ディレクター
山邊昌太郎氏

「CFLでは、アイデアレベルの初期段階から社外と協働し、まったく新しい視点や技術を取り込むことで、これまでのカルビーにはなかったコンセプトの商品を生み出すことを目指しています。今後3年間で3つ、つまり1年に1つずつは皆さんに新商品をお届けする予定です」

こう意気込みを語るのは、CFLのクリエイティブ・ディレクターを務める山邊昌太郎氏だ。山邊氏自身も“社外”から起用されており、リクルートで情報誌の編集長などを務めたほか、数多くの事業開発に携わってきた。食品業界とは無縁に近く、日常生活ではスナック菓子を食べることもあまりなかったそうだ。

「私の場合、食品業界ともスナック菓子とも縁遠かったことに意味があると思っています。CFLのスタッフは全部で7人、私を含む4人が異業種から招聘(しょうへい)されています。食に関しては素人集団ともいえますね(笑)。しかし、CFLが生み出す商品は、既存の延長線上にあるものでは意味がないんです。異業種の考え方や発想の組み立て方を取り入れることで、業界の常識にとらわれない新商品をつくり上げることを求められているわけですから」

そもそも、なぜCFLはつくられたのか。その理由は、日本のスナック菓子のトップメーカーらしからぬもの。なんと“この10年間で新たなヒット商品が生まれていないため”だったという。「かっぱえびせん」が産声を上げたのは東京オリンピックが開催された1964年、「ポテトチップス」は75年、最も新しいヒット商品「Jagabee(じゃがビー)」でも2006年の誕生だ。

「定期的に限定フレーバーを発売することで話題を呼ぶ商品はありますが、長年にわたりカルビーの屋台骨を支えるような商品と考えると、なかなか生み出せていないのが現状です。当社の業績自体は好調ですが、それは既存商品によるところが大きい。企業としては、強い危機感を覚えざるを得ません」

そこで2015年5月にCFL構想が持ち上がり、創業の地・広島で新たなヒット商品が生まれる仕組みづくりがスタートしたのだ。

「“既成概念にとらわれない商品づくり”と言うのは簡単ですが、行うのは一朝一夕にはいきません。CFLの取り組みは私たち7人に任されており、カルビー本社から指示などはなく、食品業界のしがらみや習慣、スナック菓子の常識にとらわれない研究開発を見守ってくれています。求めるのは3年で結果を出すことだけ。あとは自由。ある意味、一番厳しい状況かもしれませんね(笑)。しかし、大きな裁量を与えられていること、そしてチャレンジする面白さに、やりがいを感じています」

自分でも気づいていない
潜在的ニーズを掘り起こしたい

CFLは広島駅前というアクセスのよい場所に立地する。扉の向こうはラボ(研究室)という無機質なイメージとは大きく異なり、広々とした空間に木がふんだんに使われた温かみのある雰囲気だ。形や色、大きさも様々な椅子やテーブルが配置され、カフェのようでもある。

「よい発想が生まれるタイミングは、デスクに向かっているときよりも、心地よい空間やお風呂などでリラックスしているときが多いのではないでしょうか。だからCFLの立ち上げから参加させてもらい、スタッフがリラックスできて自由な発想が生まれやすい空間づくりを心がけました」

総勢7人のラボとしては広いスペースが確保されているが、これにも理由がある。“社外の力”を徹底的に活用するため、まずは1年間で2000人にインタビューを行うことを目標としている。これを実現するため、商品開発に協力してくれる「サポーター」とミーティングをしたり、併設のキッチンで試食会などを開いたりもするという。CFLのオープンから3カ月で、インタビューした人数はおよそ500人に達するそうだ。

「お話を伺うのは、小さな子どもを持つお母さんや学生、社会人、お年寄りまで様々です。我々スタッフだけで2000人にインタビューするには時間が足りません。そこで、県立広島大学と広島工業大学の学生たちにご協力いただき、手分けしてインタビューを進めています」

ここから得た様々な情報を新商品づくりに生かすわけだが、インタビューもこれまでにないアプローチで行われている。スナック菓子の新商品開発が目的の場合、「どんな味が好みか」「どんなときに食べたいか」「スナック菓子には何を求めるか」などを聞き取っていくのが従来のやり方だった。しかしCFLではこういった質問は行わない。代わりに、ライフスタイルの実態について聞き取っていく。

「それはもう、根掘り葉掘り聞いていくんです(笑)。“朝6時に起きて7時半に出勤するまで、何をどんな順番で行いますか?”とか、“通勤電車に乗っている時間は何をして過ごすのが好きですか?”とか、“休日に欠かさず行うことは何で、それはなぜですか?”などです。自分が今一番大切に思っていること、仕事に対する愚痴、お子さんに期待することなどを多岐にわたってインタビューします。どんなお菓子が好きかなどの情報は、CFLではあまり意味がありません。顕在化したニーズではなく、本人でも気づかない潜在的なニーズを掘り起こしたいからです」

まだ誰も見つけていない消費者のニーズを探り当てる。非常に難しく手間のかかる作業だが、CFLにとっては不可欠な作業だと山邊氏は言う。さらに、このような難しいインタビューを、プロではなく学生に行ってもらうことにも、2つの意味がある。コミュニケーションスキルが磨かれ、学生たちの将来の糧になることが1つ。そしてもう1つが、カルビーのファンの育成につながるということだ。

「自分が関わった商品には愛着を持つものです。まして、苦労しながらインタビューを行い、ディスカッションにも参加し、そうして地元で新商品が誕生すれば、熱狂的なファン、あるいはサポーターになってくれるはずです」

商品の試作に当たっては、広島の地場企業も協力体制を整えているという。創業地での商品開発には、“地元愛”というモチベーションも大きなカギを握るようだ。

CFLが生み出す新商品は、スナック菓子ではないかもしれないという。消費者の潜在的なニーズから、サプリメントが誕生するかもしれないし、お酒をつくることになるかもしれない。カルビーらしい“FUN(楽しさ、面白さ)”というキーワードさえ欠かさなければ、可能性は無限に広がる。

「人間には、思い込んでいることが山ほどある。こうでなければならない、こうであってはならないなどの既成概念で、いろいろな可能性に蓋をしています。私自身も、既成概念の塊です。そのことをまず自覚し、この場所で多くの人と関わり、ディスカッションを繰り返すことで新しい視点を持ちたい。そうすれば、必ずヒット商品は生まれると思っています」

Calbee Future Labo(カルビー フューチャー ラボ)

広島県広島市南区松原町5-1 BIG FRONTひろしま7階
https://www.calbee.co.jp/cflabo/