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異業種連携経営戦略

ベンチャーと大手、失敗しない協業の心得
協業で成果を上げるための3つのポイント

2017年2月14日

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企業同士のコラボレーションの重要性が叫ばれる中、「取りあえず協業してみたものの」といった声を聞くケースもある。協業を成果に結びつけるためには、何が必要なのだろうか。ベンチャー投資とベンチャー企業支援活動を事業の2本柱に据えるNTTドコモ・ベンチャーズの稲川尚之氏は、3つのポイントが重要という。長年にわたってベンチャーコミュニティーとの関係を深めてきた稲川氏に、協業を成功に導くためのコツを聞いた。

ベンチャー投資とベンチャー支援活動に注力

――まず、NTTドコモ・ベンチャーズの事業概要についてお聞きします。

NTTドコモ・ベンチャーズ
取締役副社長
稲川尚之氏

稲川氏 当社はNTTドコモおよびNTTグループにおける、ベンチャーコミュニティーとの窓口役を担っています。事業の柱は大きく2つあります。第1に、NTTドコモ出資のファンドとNTT出資のファンドの運営です。合計すると350億円のファンドを活用し、世界各地の有望なベンチャー企業に投資を行っています。第2に、ベンチャー企業に対する協業支援プログラム「ドコモ・イノベーションビレッジ(DIV)」の運営を行っています。

――2つの事業について、もう少し詳しくお聞きします。投資活動の方針は、どのようなものでしょうか。

稲川氏 出資戦略としては、2つの方針を掲げています。1つは「エコシステム投資」。これは、NTTドコモやNTTグループの事業に不足している要素を加えることを目的としています。一例は、シリコンバレーにある生体認証技術を持つベンチャー企業への投資です。その企業とは事業面でも連携して、指紋認証の仕組みをNTTドコモのサービスに取り入れました。

もう1つは「事業オプション拡大投資」です。今後の成長が期待できる分野で先進的な取り組みをしている企業に対して、戦略的な投資を行っています。ドローン開発を行っている北米のベンチャー企業など、多彩な投資先があります。現在、国内外の投資先は約40社。国内が5割、海外が5割くらいの比率です。

――ベンチャー投資と並ぶ事業の柱であるDIVについて、その目的や具体的な活動内容を教えてください。

稲川氏 DIVは、革新的な技術やサービスを持つベンチャー企業と、NTTドコモ・NTTグループがパートナーシップを築き、イノベーションを創出するためのプログラムです。そのベースにあるのが「コネクト&ディベロップメント」や「コ・イノベーション」といったオープンイノベーションの考え方です。

具体的な活動は多岐にわたります。まず、ミドルステージ以降のベンチャー企業を対象とした「Villageアライアンス」というものがあります。これはNTTドコモが定めるテーマに対して、ベンチャー企業に応募していただき、双方のマッチング、つまりアセットを掛け合わせて新たな価値創造を目指すというもの。こちらから複数の募集テーマを提示し、関心のあるベンチャー企業に提案をしてもらいます。募集からマッチングまでの期間は4カ月程度。ベンチャー企業からの提案を受けて、NTTドコモの事業部門に紹介するケースは少なくありません。

また、「Villageソーシャル・アントレプレナー」という社会起業家を支援するプログラムや、「Villageコミュニティ」というベンチャー企業の方々に参加してもらう勉強会もあります。以上のような活動と密接に連携する形で、ハッカソンやアイデアソン、マッチングイベントなどにも積極的に取り組んでいます。

NTTドコモ・ベンチャーズが開催したマッチングイベントの様子

協業を成果につなげるためには「マッチングの質」が重要

――パーソナルな質問になりますが、これまで稲川さんはどのようなビジネスに携わってこられたのですか。

稲川氏 当社と兄弟会社に当たる、ドコモ・イノベーションズという会社のシリコンバレー拠点で長く仕事をしてきました。昨年に、同社の事業はNTTドコモ・ベンチャーズに引き継がれ、私は日本に戻ってきました。私がかつて働いていたシリコンバレーの拠点は、今では当社の拠点として北米におけるベンチャー企業発掘、投資などの活動を続けています。

――最近はオープンイノベーションやコラボレーションの重要性を、多くのビジネスパーソンが認識していると思います。ただ、その一方で「協業が成果に結びつかない」「ムダな協業が増えている」といった声を聞くこともあります。

稲川氏 私自身の経験に即していえば、協業にたどり着くのは簡単ではありません。長年、協業を目指して日々の仕事をしてきました者としては、協業した時点である程度の成果が出たといえるのではないかと思います。

――特に大企業とベンチャー企業との協業は難しいかもしれませんね。では、協業を実現させるためのポイント、そして成果につなげるためのポイントについて教えてください。

稲川氏 3つのポイントがあると考えています。第1にマッチングの質です。私たちの側にも、ベンチャー企業の側にもそれぞれ独自の戦略があり、経営の意思があります。目指している方向が違えば当然、マッチングはうまくいきません。お互いの目的がぴたっと合致したときに、協業がうまくいくのだと思います。そこで、Villageアライアンスでは、NTTドコモが取り組もうとしているテーマを示した上で、これに関心を持つベンチャー企業に手を挙げてもらうようにしました。こうしたスキームをつくることで、マッチングの質を高められます。

オープンイノベーションと幹部のバックアップがカギ

――「この指とまれ」方式なら、NTTドコモと協業したいと考えるベンチャー企業が集まりますね。

稲川氏 そう思います。第2のポイントは、NTTドコモとNTTグループの中で、オープンイノベーションの考え方を浸透させることです。おそらく他の大企業においても、大なり小なり自前主義の意識があると思います。全ての機能が自社グループの中にあれば、「わざわざ外部と組む必要はない」と考える人もいるでしょう。しかし、世界は広い。外部にはもっと面白いサービスや先行するテクノロジーがあります。これは私自身の経験ですが、シリコンバレーなどのベンチャー企業を社内の関連部門をつなごうと思って紹介し、「その技術なら、3~4カ月あればウチで開発できる」と言われて断られるケースが少なからずありました。確かに、社内で開発することはできますが、外部の技術を使えばすぐにサービス化できるかもしれません。自前主義によって、スピードが犠牲になる可能性があるということです。先ほど協業の難しさについて話しましたが、それは自前主義の壁を突破することの難しさでもあります。

――協業を実現するための3つ目のポイントは、どのようなものですか。

稲川氏 第3にサポーター役を担う幹部の存在です。シリコンバレーにいたときから感じていたことですが、結果としてヒットする技術やアイデアは、2割くらいしか賛同を得られないことが多い。会議に参加したメンバー全員が賛成するようなものは、確かに優れた技術ではありますが、ビジネスとしてうまみのある部分は誰かに持っていかれている場合がほとんどです。ビジネスで勝つためには、多くの人が気づく前に行動を起こす必要があります。

――賛成2割の会議でアイデアを通すためには、幹部の強力な後押しが欠かせないということですか。

稲川氏 その通りです。会議の中で「やってみよう」という空気を、いかに醸成するか。そのカギを握るのが、味方となる幹部のバックアップです。どんなチャレンジにもリスクはあります。特に全く新しい技術に取り組むときには、失敗の可能性も大きい。それでもやる価値があるということを、幹部に理解してもらうことが非常に大切です。

――お話しいただいた3つのポイントは、DIVなどの取り組みの中でも生かされているということですね。

稲川氏 Villageアライアンスでは、応募方式を工夫するだけでなく、NTTドコモの戦略と合致するテーマ選び、幹部を巻き込む活動などを心掛けています。例えば、最近ベンチャー企業に提示したテーマは5G時代にどのようなサービスが可能か、どのような価値を創出できるかというもの。言うまでもなく、5GはNTTドコモの戦略の軸となる技術であり、研究開発部門を中心に全社的な取り組みが進められています。そして、ベンチャー企業のプレゼンを評価する審査メンバーには、NTTドコモの5G推進部門のリーダーが名を連ねています。こうした取り組みはマッチングの質を高め、オープンイノベーションの意識を醸成するとともに、幹部の理解を得ることにもつながるでしょう。目に見える成果がすぐに表れるわけではありませんが、息の長い取り組みが重要だと思っています。

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