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地域地方創生

人が人を呼ぶ地方創生のカギは「フラットな人間関係」にあり
神山町に学ぶ“Win-Winのエコシステム”構築の秘訣(後編)

2016年9月20日

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神山町では前編で触れたSansanのサテライトオフィス開設の翌年、2011年度に人口流出と人口流入が逆転。一時的な現象ではあったが、以来、若い世代の転入が続き、町の活力は増進している。“人が人を呼ぶ”好循環が生まれている神山町だが、そこではどんなエコシステム(生態系)が構築されているのか。後編では最新の情報を踏まえて、神山町のエコシステムの実状を紹介していく。

新たな付加価値で人を呼ぶ
ファブスペースという場の開設

写真左上から、神山バレー・サテライトオフィス・コンプレックス内に開設された徳島県庁の「とくしま新未来創造オフィス」と、徳島大学サテライトオフィス神山学舎。写真下は、2015年7月にオープンした滞在施設「WEEK神山」。

止まらない過疎化を前に、神山町のNPO法人グリーンバレー理事長の大南信也氏が提唱したのが“創造的過疎”である。町が必要とする若者やクリエーティブな人たちを招き入れ、人口構造を変えて、働く場としての町の価値を高めようというものだ。この取り組みは一定の成果を上げつつある。

この動きにさらに拍車をかける取り組みが始まっている。それが「神山バレー・サテライトオフィス・コンプレックス」(以下、コンプレックス)の進化だ。

コンプレックスは、2015年7月にオープンした神山町の滞在施設「WEEK神山」の向かいにある。もともと裁縫工場だった建物を、2013年に改修して、誰もが共同で利用できる仕事場、コワーキングスペースとしてオープンさせた。

オフィススペースやラウンジ、広々とした多目的スペース、ミーティングルームなどから構成される。一角には徳島県庁のサテライトオフィスも開設されている。Webカメラを通して、常時本庁のオフィスの様子が大画面のディスプレイに映し出されている。スタートアップ企業や会員企業は月単位で利用でき、ビジターも1日から利用できる。ちなみに学生には無料で提供されている。

2015年、このコンプレックスに新しい機能が追加された。3Dプリンターやレーザーカッターを導入したファブスペースが、入り口の右側に開設されたのである。これに興味を持ったのが、オランダ在住のアーティストである阿部さやか氏だった。

神山町に魅力を感じる人が
神山町の価値を高めていく

阿部氏は2013年に招待アーティストとして神山町を訪れて以来、度々神山町を訪問していた。その阿部氏が出来たばかりのファブスペースを見て、アムステルダムから神山町への移住を決意したのだ。「しかもいったん、ベルリンのファブスペースでインターンシップとして働き、ファブスペースの運営ノウハウを学んだ上で、来日してくれました。来日してすぐに、地元の高校生に機械の使い方を教え、そこでつくられた杉の木のキーホルダーは、神山町で販売されています」(大南氏)。

神山バレー・サテライトオフィス・コンプレックス内にあるファブスペースでは、3Dプリンターやレーザーカッターの講習会が行われるなど、神山町民や神山を訪れた人々がものづくりを体験できる場所を提供している。

また、2014年に神山町に移住してきていたカーモデリングを手掛ける3Dモデラーの寺田天志氏は、2015年12月に地元の小学生に対して、CGでフリスビーをデザインする方法を講義した。「寺田さんはフリスビーの名人でもあって、小学生に好評でした。2016年1月には小学生たちがデザインしたフリスビーをコンプレックスの3Dプリンターで出力して、実際に飛ばしてみました」と大南氏は話す。

本稿の前編でも紹介したように、神山町では“本物”だけを受け入れてきた。それがいい意味でハードルとなり、才能を持つ人たちが数多く集まっているからこそ、こうした相乗効果が生まれてくる。「企業も個人も自らリスクを取れることが大前提。その上でやりたいと思っていることを、町として支援していく形を取っています」と大南氏は持論を披露する。

神山町では、移住者の事業と地元の人たちとの連携が至る所で進められている。WEEK神山の食堂の脇にある庭は、地元の高校の生徒が手入れをしている。ビストロでは地元農家の育てた野菜が消費されている。

しかし、こうした地産地消にも神山町ならではのこだわりがある。目が世界に向いていることだ。大南氏は「地域が地産地消を目指すと普通は経済が小さくなります。無いものを地域外に求めることで、お金が外に流れるからです。取り戻せるものは地域に取り戻し、さらに近郊だけでなく、海外から人を呼び込むことで、経済の収縮を防いでいるのです」と語る。だからこそ、エコシステムによってその魅力を生み出すことが最優先とされているのだろう。実際に、海外からの来訪者は驚くほど多い。

本物のフラットな結びつきが
エコシステムを成功に導く

NPO法人グリーンバレー 理事長
大南 信也氏

神山町から見えてきたエコシステムを成功させるポイントは、集まる人たちが“フラット”な関係であることだ。もたれかかる関係では、エコシステムはうまく作用しない。大南氏は「上下関係があるとお互いが気持ちよくない。できるだけフラットな関係を維持するように心がけています。優遇策という下駄を履かせると、人によって凸凹が生まれます。それは外から見たら不安定なはずです」と安易な優遇策のデメリットを指摘する。

「神山町は山間の田舎町です。それを武器に逆張りしています。都会がやらないことをやることで価値に変えているのです。人によって応対を変えると、息苦しくて疲れるだけです。しかも外部からは信用されません。シンプルなのが一番なんです」と大南氏はフラットかつシンプルなことの重要性を指摘する。付け焼き刃的な優遇策は全体の調和を乱すし、長続きはしないということだ。

こうした考え方は行政の戦略立案にも反映されている。「昨年地方創生について総合戦略を立てることになったのですが、有識者によるコアチームと、テーマごとにワーキンググループをつくって、みっちり取り組みました。コアチームの会合は3カ月間で15回に及びました」と大南氏は語る。

計画は本気で立案し、さらに実践してこそ価値がある。この討議の結果は新しい公共住宅をつくる「集合住宅プロジェクト」、空き民家を朽ちる前に手を入れて活かす「民家改修プロジェクト」、農業と食文化をつなぐ「フードハブ・プロジェクト」、若い人たちも加えて町のこれからを探る「教育連携」の4つのプロジェクトにまとめられ、地元住民と移住者が一緒になって、世代を超えて実践に取り組んでいる。

「地方創生にとって重要なのは思いを持った人たちが集まることです。人数は関係ありません。地域を活性化させるには、よく“馬鹿者、よそ者、若者が必要”といわれますが、一番大事なのは“本物”です。間口は広く取った上で必要と思える人を取り込んでいく。本物ばかりだからこそつながりが生まれ、それがエコシステムを成長させていくのです」と大南氏。エコシステムを考える上で、まだまだ神山町から学べるところがありそうだ。

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