close

イノベーション資源エネルギー

省エネやIoT電源として注目されるフレキシブル熱電発電モジュールの可能性
パートナーと連携して普及・促進を目指す

2017年1月26日

昨年、日本ユニシス本社で開催された「TECH PLAN DEMO DAY 第4回ディープテックグランプリ」最終選考会では、Eサーモジェンテックの「未利用排熱を利用したフレキシブル熱電発電モジュール」が日本ユニシス賞を受賞した(関連記事はこちら)。特許を取得したフレキシブル熱電発電モジュールの開発経緯や適用分野、普及に向けたビジネスエコシステムへの期待などを聞いた。

エネルギーの効率的利用で持続可能な社会の構築に貢献

日本ユニシスなどが参画するビジネスプランコンテスト「TECH PLAN DEMO DAY」(主催リバネス)は、ハードウェア・ロボティクス・センシング分野の先進的なテクノロジーにビジネスプランを付与することで社会実装に向けた一歩を踏み出すことをサポートする、技術シーズ発掘育成プログラムだ。事業化を目指す研究者または研究開発型ベンチャー企業を対象にしたディープテックグランプリ最終選考会が2016年9月、日本ユニシス本社で開催され、日本ユニシス賞はEサーモジェンテックの「未利用排熱を利用したフレキシブル熱電発電モジュール」が受賞した。

株式会社Eサーモジェンテック
代表取締役 最高経営責任者(CEO)
南部修太郎氏(写真左)と
同社取締役 市場開発部門長 岡嶋道生氏

同社取締役の岡嶋道生氏は、「TECH PLANTERには日本ユニシスをはじめ、有力な企業が新技術の種を求めて参画し、新技術を熱心に育てようとする姿に刺激を受けました」と述べる。「ディープテックグランプリ最終選考会で日本ユニシス賞を受賞したことを契機に、当社のフレキシブル熱電発電モジュールに興味を持つ企業が増え、サンプルを送ってほしいといった問い合わせもたくさんいただいています」と話すのは、Eサーモジェンテック代表取締役の南部修太郎氏だ。

同社は「熱電発電の普及を推進し、エネルギーの効率的利用を促進する」を経営スローガンに2013年2月に設立された技術型ベンチャー企業だ。大手電機メーカーで半導体デバイスの研究開発と事業化に従事してきた南部氏をはじめ、役員には半導体、電子デバイスなどの研究開発に携わってきた経験を持つエンジニアが名を連ねる技術者集団である。

岡嶋氏は、次のように説明する。「当社は、半導体事業における豊富な経験と熱電発電に関する独自技術を基に、エネルギーの効率的な利用を促進することにより、持続可能な社会の構築に貢献することが目標です」。

Eサーモジェンテックが開発したフレキシブル熱電発電モジュール

IoT電源の課題解決を目指す

Eサーモジェンテックがフレキシブル熱電発電モジュールの事業化に乗り出した背景には、これまで排熱がムダに捨てられてきたことがある。全一次エネルギー供給量の60%以上という膨大な排熱が地球環境に排出されているという。そのうちの75%が「低温排熱」と呼ばれる300℃以下のもので、各種プラントや発電所、清掃工場、自動車、船舶、データセンターなど様々な場所で排出されている。

「300℃以上の高温排熱は水蒸気のタービンで発電するといった回収技術により、省エネ、再利用が確立しています。それに対し、低温排熱は再利用が難しく、ほとんどが捨てられていました。その一部でも再利用できれば省エネになります。これが熱電発電モジュールの事業化に取り組むきっかけでした」と南部氏は振り返る。

省エネ用とともに、Eサーモジェンテックが目指すのが、あらゆるモノがインターネットにつながるIoT向け電源に熱電発電を利用することである。情報を収集するセンサーや、情報を送る無線機器などのIoTデバイスは今後、膨大な数になると予測されている。

だが、課題もある。センサーなどIoTデバイスの電源である。「プラント設備の温度や圧力などの情報を収集するセンサーの電源供給に電力ケーブルを使用する場合、高所などケーブルの敷設が困難な場所もあります。その結果、配線が可能な場所しかセンサーを設置できず、プラントのあらゆる場所にセンサーを取り付けて様々な情報を収集することが難しいという問題がありました」(岡嶋氏)。

センサーの電源に一次電池を使用する方法もあるが、電池の費用に加え、定期的な交換のための人件費など、維持費の問題がある。また、高所のセンサーの電池交換作業には危険が伴うこともある。「作業員の安全・安心の確保やIoTデバイスの省エネ、ランニングコストの低減など、一次電池に代わる自立電源のニーズが高くなっています」と南部氏は、IoT用電源の課題を解決するフレキシブル熱電発電モジュールの意義を説明する。

「コロンブスの卵」から生まれたモジュール

熱電発電は決して新しい技術ではない。物質の両端に電圧をかけて温度差を与えると起電力が発生するペルチェ効果を利用する。例えば、40年前に打ち上げられた無人宇宙探査機「ボイジャー」は小型原子炉の放出熱を使って発電する熱電発電の仕組みが利用されているという。

熱電発電は以前から取り組まれてきた技術であるが、「これまでの熱電発電モジュールは、熱回収率やコスト、信頼性に課題があったのです」と岡嶋氏は指摘する。例えば、熱電素子として金属に近い半導体の一種であるBiTe(ビスマス/テルル)系熱電材料をセラミック基板に実装する熱電発電モジュールもあるが、「フラットなセラミック基板を用いているため、プラントなどの円筒状の配管パイプへの密着性に難があり、熱回収効率が低いという問題がありました」(岡嶋氏)。

また、近年は有機熱電材料をフレキシブル基板上に蒸着・塗布・印刷したモジュールも開発されているが、BiTe系など既存の熱電材料に比べて発電効率が劣り、研究段階の状況だという。さらに、IoT用自立電源として熱電発電モジュールが海外メーカーから商品化されているが、発電量がミリワット程度と少なく、用途が限定的のようだ。

フレキシブル熱電発電モジュールは、
高密度で自在に湾曲できるのが特長
(画像提供:Eサーモジェンテック)

こうした従来の熱電発電モジュールの課題を一気に解決したのが、Eサーモジェンテックのフレキシブル熱電発電モジュールである。極薄のフレキシブル基板上に、既存のBiTe系熱電素子を高密度に実装している。基板は自在に湾曲できるので、配管パイプなど円筒状の熱源に対して密着装着が可能だ。

フレキシブル熱電発電モジュールの特長について、南部氏は次のように語る。「従来のセラミック基板型に比べ、熱回収効率は約3倍、熱電変換効率は約2倍の性能を実現しています。また、成熟した半導体量産技術を活用することで、低コスト化と半導体で培われた知見などを生かして高い信頼性のモジュール製作が可能です。さらにBiTe系以外にも、熱電素子の自由度が高く、用途に応じて温度域に適した熱電素子を選択することができます」。こうした斬新なアイデアが生まれたのも、半導体技術の研究開発や生産現場での経験が糧となっており、南部氏はまさに「コロンブスの卵」だという。

フレキシブル熱電発電モジュールやその製造方法などは、南部氏が代表を務める新事業創出企業「アセット・ウィッツ」および、共同研究を進める大阪大学などが出願人となり、2013年に基本特許が登録されている。

「フレキシブル構造熱電発電モジュール」の構造出所:Eサーモジェンテック Webページ

パートナーと連携してIoT向け自立電源を普及・促進

Eサーモジェンテックでは、フレキシブル熱電発電モジュールの事業化を進めており、現在、現場での施工性に配慮した実用化モデル「フレキーナ」(商品名)の試作・検証を進めており、信頼性を実証した上で、2018年度春から商品を販売する計画だという。

実用化モデルのモジュールは温度差70℃の場合、15ワット/1枚(10cm角)の発電能力、量産時に1万円/1枚の価格を目標にしており、火力発電に匹敵する10円/kWhを目指すという。「当社では、フレキシブル熱電発電モジュール単体の販売ではなく、モジュールとコンバーターなどを組み合わせた自立電源をシステムとして提案し、普及・促進を図る計画です」(岡嶋氏)。

IoT向け自立電源(数ワットクラスまで)の熱電発電システムは2018年4月から提供を開始する計画で、IoTのセンサーや無線機器の電源などの用途が見込まれている。また、直流供給型省エネ用自立電源(キロワットクラス)はより高い信頼性が求められることから、さらに研究開発を進め、2020年ごろからの提供を計画しているという。自動車・船舶、街路灯・信号機、災害時非常用電源、データセンターなどでの利用が想定されるほか、電子冷却システムへの用途にも利用できるという。

フレキシブル熱電発電モジュールの普及には、パートナーと連携するビジネスエコシステムの視点も重要になる。オープンイノベーションを掲げてベンチャー企業と連携してきた経験を持つ南部氏は、次のように期待を語る。「パートナーの形態はいろいろあります。例えばIoT機器の事業者と連携して企業にモジュールを提案することも考えられます。また、プラント監視システムに自立電源を供給する場合、対象となるIoTセンサーは数万個に及ぶこともあります。先進的なIT企業のソリューションに当社のモジュールを採用いただくことで、お客様に役立つ提案が可能です」。

Eサーモジェンテックは、社会課題を解決するビジネス創造に向け、業種・業界を超えて連携するビジネスエコシステムの取り組みに一層注力していく考えだ。

株式会社 Eサーモジェンテック

本社:京都市南区東九条下殿田町13 九条CIDビル102
設立:2013年2月26日
資本金:2800万円
研究拠点:大阪大学産業科学研究所インキュベーション棟
事業内容:熱電デバイス、熱電システムの研究・開発・製造・販売・コンサルティングなど。株式会社アセット・ウィッツによる熱電発電関連の新事業創出を推進する過程で、2013年にコア技術の熱電発電モジュールの基本特許の登録を契機にベンチャーとして創業した。
URL:http://e-thermo.co.jp/