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異業種連携経営戦略

トップランナー4社の強みを生かしたデジタルマーケティング
人流、商流、物流、情報流でアジアの消費者との接点を拡大

2017年4月28日

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2016年10月、JTBと日本通運、三越伊勢丹ホールディングスの3社は、アジア向けにデジタルマーケティング事業を展開する合弁会社「Fun Japan Communications(以下、FJC)」を設立した。同時に、JALも業務提携として加わり(※)、異業種4社が日本の成長と発展の起爆剤となる新たなビジネスに挑んでいる。その背景とは――。

異業種の協業により厚みのある
デジタルマーケティングを展開

各分野のトップランナー4社が集結して誕生したFJC。日本とアジアの懸け橋となることをコンセプトに、日本企業や自治体と、東南アジア地域の消費者との接点拡大及び関係構築を目指していくという。

その軸となるのがWebメディア「Fun! Japan」だ。これは日本通運が2014年2月に設立していたもので、東南アジアに進出する日本企業をサポートするためのツールであったという。東南アジアの現地消費者に向けて、日本に関する情報を毎日数本ずつアップ。その中に現地に進出している企業についての情報などを盛り込み、認知を拡大させながら双方向でのコミュニケーションを図ってきた。

Fun Japan Communications
ゼネラル・マネジャー
石田和也氏

「東南アジア市場の将来性を見据えた日本企業の進出は以前から進んでおり、日本通運も物流面からバックアップを行ってきました。しかし、東南アジアは国によって民族や文化や所得などが大きく異なり、現地の生の声がつかみきれないという声が多く聞かれていました。日本企業の売り上げが伸びなければ物流も停滞するしかない。そこで、東南アジアに展開する日本企業のサポートを目的に、『Fun! Japan』の提供をスタートしたのです」と、日本通運でグループの新事業を創造・実践してきたFJCのゼネラル・マネジャー、石田和也氏は説明する。

このサービスをさらに充実させ、価値あるコンテンツを提供することで海外消費者との関係性をより強固なものとする。そのためにあえて異業種が協業し、サービスの付加価値を高めようというのが、FJC設立の目的の1つだ。現在、「Fun! Japan」の展開国はインドネシア、タイ、マレーシア、台湾の4カ国。2017年度中に、フィリピンとベトナムにも拡大する予定だ。主なユーザーは熱烈な日本ファンであり、Web会員数は43万人、SNSファン数は387万人にも上る。1日のユニークユーザー数は161万人超で、日本紹介サイトではアジア地域最大級の規模を誇っている。

Fun! Japan Indonesia

協業各社は、東南アジアの消費者と情報を共有する接点がないこと、効果的なマーケティングが困難であること、それにより現地消費者にリーチし切れていないことなどの課題を感じていた。しかし、これらの解決は、一企業で取り組むだけでは限界がある。

Fun Japan Communications
最高執行責任者
稲川直樹氏

「各社の課題は、日本全国の自治体や企業の課題でもありました。我々の大義は、協業による人流、商流、物流、そして厚みのある情報流を兼ね備えたサービスを提供することで日本全体を活気づけること。訪日インバウンドの拡大や日本のモノ・文化の浸透、地方創生や海外輸出の拡大を図り、オールジャパンの体制で日本を売り出していくことを目指していきたいと考えています」と、アクセンチュアで流通・消費財業界向けの新規事業に従事してきたFJCの最高執行責任者、稲川直樹氏は語る。

インバウンドも海外展開も、人口が減少する日本にとって唯一といっていい成長の方向性である。そのため、各自治体や企業は独自のプロモーションを行ってきたはずだ。しかし、状況は常に変化している。例えば訪日外国人の旅行形態である。かつて団体旅行が主流であった時代には、観光施設や宿泊施設をコースに組み込んでおけば自動的に多くの集客が望めた。ところが今、訪日外国人の旅行形態は個人旅行に大きくシフトしているという。

Fun Japan Communications
代表取締役社長
藤井大輔氏

JTBで訪日インバウンド戦略を推進してきたFJCの代表取締役社長、藤井大輔氏は、「個人の旅行者にアプローチすることは非常に難しい。日本を訪れて食を楽しみたいのか、文化に触れたいのか、買い物をしたいのか、個々のニーズを絞り込むことは困難を極めます。そのため、これまでの手法でCMや雑誌のプロモーションを行っても、お金がかかる一方で効果が分かりにくくなっています。そこで『Fun! Japan』のコミュニティを活用し、情報発信やプロモーションなど企業の目的をコンバージョンさせていきます」と語る。

地域の特産品を海外展開したい自治体であれば、「Fun! Japan」で現地ニーズをリサーチした上でアタリを付け、潜在需要の高い地域には日本通運が商品を配送し、現地の三越伊勢丹店頭で販売を行うこともできる。インバウンド拡大に向けたプロモーションを展開したい企業なら、「Fun! Japan」上でターゲティングプロモーションを行ったり、JTBによるパッケージで人の流れをつくったりすることなども考えられるわけだ。

デジタルだけでなく、協業各社の
リソースを活用したリアルなアプローチが可能

異業種4社の集結によって、情報と人脈という幅広いネットワークが構築され、東南アジアをターゲットとしたプロモーションから現地展開、「Fun! Japan」会員によるアンケートの実施まで、トータルなデジタルマーケティングサービスの提供が可能となった。協業によるビジネスや新会社設立には難しさが付き物であると想像するが、同社の場合、それは非常にスムーズに進んだという。

「この背景には、日本の成長と発展に貢献したいという大義があり、確固たるビジネスモデルがあったからだと考えられます。これを実現するためには早急に信頼関係を構築する必要があり、そのためにもプレイヤー同士、メリット・デメリットを最初からさらけ出し、コミュニケーションを図ることを最重要視してきました。利益のためのみならず、日本のためにできることを考え、お客様に評価される会社を目指す。これが、協業をスムーズに進めることができたカギであったと思います」(稲川氏)

図1 Fun Japan Communicationsのビジネスモデル出所:Fun Japan Communications

設立からまだ半年だが、すでに全国の自治体や企業からのアプローチが集まっているという。これまでにはなかったサービスであり、これまでにはなかったコミュニティを有する同社への注目度は高い。トップランナー4社が関わることが、大きな信頼にもつながっている。

「現在、いくつかのビジネスが動き始めています。例えば、日本の南の地域にある自治体が東南アジアに対してインバウンドの拡大を検討。しかし、同じように暑い地域である東南アジアの消費者に対して、闇雲にプロモーションを打っても十分に魅力を伝えられるか分かりません。そこで、日本ファンである会員に対し、日本の温かい地域で楽しみたいことは食なのか、文化なのか、それとも海をはじめとした自然なのかをリサーチしていく。団体旅行が主流であった時代に旅行代理店が行ってきたタッチポイントの検索を、個人旅行者を見据えて行っていくわけです」(藤井氏)

東南アジアはSNSの拡散度が非常に高いという特徴があるため、「Fun! Japan」を活用して情報の拡散も行っているという。従来のテレビや雑誌広告などのメディアと比較して安価であり、また何人が見て何人が購買につながったかなどの定量が把握できる点も、自治体や企業からの注目度の高さにつながっているようだ。

費用対効果にも優れ、万が一ヒットにつながらなくてもその原因を探って次の一手を考えることができる。長期的つながりが持てることも、同社サービスの大きな魅力といえるだろう。

「東南アジアにおける情報の取得源を調査してみると、従来のマスメディアは全体の3割程度であったのに対し、ソーシャルメディアがファーストコンタクトの7割を占めることが分かってきました。ソーシャルメディアの中で企業が直接情報を出すと広告色が強くなってしまい、アクセスされずに飛ばされることが多いものですが、『Fun! Japan』は会員と密につながっている実績があるため、情報が興味の向上や購買意欲の促進につながりやすくなっています。タッチポイントがないという、各自治体や企業の課題の解決に貢献できると考えています。また『Fun! Japan』では、デジタルだけでなく協業各社のリソースが活用でき、リアルなアプローチも可能な点が、従来にはなかったサービスといえるのではないでしょうか」(石田氏)

図2 Fun Japan Communicationsの将来像出所:Fun Japan Communications

今後は、業種を問わず連携を進めていく構想もあるという。例えば、コンテンツを充実させるためのITメディア系企業、東南アジアの消費者にアクセスするためのオンライン系ECサイト企業など、様々考えられる。

「日本の成長につながるのであれば、幅広い業種と連携を取っていくことも必要だと考えています。まずは、来るべき2020年をターニングポイントに、FJCは規模ではなく価値の高い企業を目指していきたい。インバウンドビジネスや海外展開を模索するとき、まずはFJCに相談すれば道が開ける。そんな存在となれるよう、現在のビジネスモデルをより強固なものにしていきたいと思います」と、藤井氏は力説する。

従業員の30%が外国人の同社は、異国間のコミュニケーションは「場」が生み出すとして、
開放的なオフィスづくりも重視

※取材当時。2017年4月現在は資本提携として参画

株式会社Fun Japan Communications

東京都港区芝公園1-6-7 ランドマークプラザ 7F
https://fj-com.co.jp/

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