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イノベーション異業種連携

「GLM」京都発EVベンチャーが世界に挑む
水平分業モデルで自動車業界に新風巻き起こす

2017年3月31日

京都発のEVベンチャー、GLMが注目されている。2015年に驚異的な加速性能を持つEVスポーツカー「トミーカイラZZ」の量産を開始。代表取締役社長を務める小間裕康氏は水平分業モデルでのEV生産を目指し、それを実現した。しかし、量産までの道のりは平たんではなく、いくつものハードルを乗り越える必要があった。

家電は垂直統合から水平分業へシフト
自動車業界にも変革の予感

2015年10月、国産初のEV(電気自動車)スポーツカー「トミーカイラZZ」の量産が本格スタートした。高剛性のアルミシャシー、FRP(繊維強化プラスチック)の外装フレームなどにより、一般的な軽自動車より軽い850kg車体を実現。軽量かつパワフルなトミーカイラZZは、発進から3.9秒で時速100kmに達するという圧倒的な加速性能を持つ。販売価格は800万円(税別)だ。

GLMが販売するEV版トミーカイラZZ

トミーカイラZZを開発したのはGLMというベンチャー企業だ。京都大学VBL(ベンチャー・ビジネス・ラボラトリー)で2006年に発足した「京都電気自動車プロジェクト」からスタートして、2010年4月にGLMとして設立された。同社の社長を務めるのが小間裕康氏である。

GLM 株式会社
代表取締役社長
小間裕康氏

「私は2000年に起業し、主に家電メーカーからマーケティング関係の仕事を受託するBPO(Business Process Outsourcing)事業を手掛けました。ビジネスがある程度軌道に乗った段階で、京都大学大学院経営管理教育部に入学。それまでの事業は後進に委ねて、フルタイムの学生になりました。専門知識を体系的に学びたかったからです」

小間氏はもともと、ものづくりに興味があった。大学院入学の背景には、ものづくり関係の新たなビジネスを見つけたいという思いもあったようだ。EVにも注目していた。家電業界で仕事をする中で、大きな地殻変動を目撃した経験が大きいという。

「2000年代に、家電のメインプレーヤーは大きく変わりました。日本メーカーが低迷する中、アップルのiPhoneが大人気になり、同時に新興国メーカーが台頭。コンピュータや家電などのビジネスは、垂直統合から水平分業へと大きくシフトしました。ダイナミックな変化の中で、目の前に現れたのがEVでした。これからの時代、自動車産業も大きく変わるのではないかと感じました」

パソコンや家電製品の多くは、部品を組み立てれば完成品を製造できるようになった。高度な擦り合わせが得意な日本メーカーの優位性が低下し、コンセプトやデザインの斬新さで定評のあるアップル製品、コスト競争力を持つ新興国メーカーが躍進した。「クルマもパソコンのように、部品を組み合わせさえすればつくれる時代がくるのではないか」と小間氏は考えた。

京都発・伝説のスポーツカー
「トミーカイラZZ」を継承

京都電気自動車プロジェクトは、京都大学VBL施設長だった松重和美教授が主導していたプロジェクト。別の講義で「京都の多様な部品メーカーの力を結集すれば、京都の中だけでEVの基幹システムができる」という話を聞いてピンときた小間氏は、松重教授に詳しい話を聞きに行く。この出会いがGLMの始まりだ。プロジェクトに参加していたのは30人ほどの学生や研究者。

「自動車分野以外のメンバーが中心だったので、柔軟な発想であれこれアイデアを持ち寄って議論を重ねました。GLMのCOO(最高執行責任者)は、当時のメンバーの1人です。彼はいったん別の企業に就職したのですが、数年後に『やっぱりやりたい』と戻ってきてくれました」

2010年の会社設立後も、多彩な人材が集まった。まだ何もつくっていないベンチャー企業だが、小間氏のビジョンに引き寄せられ、大手自動車メーカーを退職して参加した技術者もいる。

「大手メーカーの出身者もいれば、レース用など一品もののクルマに関わった経験のある技術者もいます。同じエンジニアですが、異なるバックグラウンドを持っているだけに、多様なアイデアや意見が飛び交っています」

GLMの社員の大半はエンジニアだ。その中に、かつてガソリン車の「トミーカイラZZ」開発に携わった技術者もいる。トミーカイラZZは、1990年代を駆け抜けた京都発のスポーツカーである。200台余りが製造販売されたが、メーカーであるトミタ夢工場は事業を継続できなかった。その技術者との出会いが、GLMにおけるトミーカイラZZ開発のきっかけだ。小間氏はかつてトミタ夢工場を率いた富田義一氏に協力を仰いだ。快諾した富田氏は現在、GLMの社外取締役の任にある。

単に組み合わせるだけではダメ
EVでも擦り合わせが必要

トミーカイラZZブランドの継承と同時期、2010年12月に「京都電気自動車開発ワーキンググループ」が結成された。参画したのはGLMのほか、オムロンやニチコン、日本電産といった京都の企業である。このワーキンググループをベースに、一部でGLMとの共同研究がスタート。こうして、試作プロセスが立ち上がった。

「最初はトミーカイラZZのガソリン車をそのままEV化して、プロトタイプをつくりました。しかし、狙い通りの性能や品質が出ませんでした。例えば、電源をオンにするとビューンと走りだします。面白いといえば面白いのですが、とても操作できない。おもちゃを大きくしたようなものでした」

小間氏は「部品を組み合わせればつくれる」という考えを捨てた。目の前の「おもちゃ」を見て、捨てざるを得なかった。

「単なる組み合わせでは、クルマはつくれないと思い知らされました。また、ガソリン車のトミーカイラZZの設計をそのまま踏襲したのでは、国土交通省から国内認証の取得もできないと分かりました。90年代と現在とでは、安全基準が大きく変わっているからです。そこで、すべてをイチから設計し直すことにしました。協力してくれる部品メーカーを含めて、当時すでにチームはできていました。このチームがあればできると思ったのです」

このような事情で、かつてのトミーカイラZZとはまったく異なるEVスポーツカーの開発が始まった。それは、長い道のりだった。

まず、試作段階で様々な壁にぶつかった。例えば制御である。バッテリーとモーターをつなげば、確かにEVは動く。しかし、ドライバーが気持ちよく走るクルマをつくるには、適切な制御が欠かせない。モーターはインバーター、バッテリーはBMS(Battery Management System)で制御され、これらの上位にあるVCU(Vehicle Control Unit)によってコントロールされる。

「3つの制御システムをはじめ、すべてをイチから学び、多くの方々の協力を得ながら自分たちでつくっていきました。最初はアリモノを組み合わせるだけだったのですが、徐々にそれがオリジナルなものに置き換わっていきました。単に組み合わせるだけではうまくいかない、擦り合わせが必要だということも分かりました。今振り返ると、試作段階はそんな学びのプロセスだったと思います」

試作と量産で異なるリスクの質
粘り強く部品メーカーを説得

トミーカイラZZの試作車が完成し国内認証を取得したからといって、すぐに量産に移れたわけではない。歩を進めるためには、クリアすべきハードルがあった。部品メーカーの協力である。

試作と量産の意味合いは大きく異なる。試作まではあくまでも研究開発の一環だが、一般の消費者に販売する量産となるとリスクの質が変わってくる。

「『もし事故でもあれば、ウチのブランドに傷がつく』ということです。安全性を担保するための様々な施策を考え、テストのメニューを増やしました。そうした取り組みについて丁寧に説明することで、ようやく部品メーカーの承諾を得ることができました」

こうして、GLMは量産プロセスに移行。品質のバラツキをいかに抑えるか、生産プロセスをいかに効率化するか。そんなノウハウを高めながら、年間数十台のトミーカイラZZを生産している。

冒頭で述べたように、量産開始は2015年10月のこと。当初の予定から、およそ3年遅れのスタートだ。しかし、世界の自動車ベンチャーの多くは、コンセプトカー段階で立ち止まったままである。そんな事情をよく知る業界関係者から見ると、量産にたどり着いたこと自体が驚きのようだ。3年遅れたけれどやり遂げた。その事実には、何ものにも替えがたい重みがある。

今、GLMのもとには様々な部品メーカーや完成車メーカー、異業種の企業などからコラボレーションの打診や相談などが寄せられている。GLMのビジネスエコシステムは、異業種や海外への広がりも視野にとらえ始めている。

EVにおいても擦り合わせが重要とはいえ、GLMのビジネスモデルは基本的に多くの企業の協力によって成り立つ水平分業である。小資本のベンチャー企業が、系列の形成や垂直統合モデルを目指すわけにはいかない。

一方、小間氏はEVの生産だけの水平分業モデルを考えているわけではない。目指しているのはプラットフォームビジネスだ。

新興国・発展途上国の市場に注目した
プラットフォームビジネス構想

「アリモノの部品をつないでEVができるなら、おそらく開発費は数十億円程度でしょう。これが当初の構想でしたが、現実的ではないと痛感させられました。一定以上の品質、安全性を確保するためには1桁、2桁高い開発費が必要です」

とても、ベンチャー企業に背負い切れるような投資額ではない。ならば、どうするか。小間氏は、新興国・発展途上国の市場に注目した。

「海外、特にアジアの国々では、次々に現地の自動車メーカーが立ち上がっています。ただ、生まれて間もないこともあり、投資余力や開発力は十分とはいません。こうしたメーカーとコンソーシアムを組むことで、大きな開発費を分担することができるのではないかと考えました」

GLMがEVのプラットフォームを開発し、それを新興メーカーに提供するというエコシステムである。プラットフォームはクルマの骨格であり、頭脳や臓器でもある。それはフレームやシャシー、ステアリング、サスペンションからなる車台、モーターとバッテリー、制御ユニットなどでつくられるパワートレインの大きく2つの要素で構成される。

プラットフォームが手に入れば、各メーカーは大きな開発投資を避けながらEVをつくることができる。ただ、こうしたエコシステムに対して警戒感を持つメーカーもある。パソコンがWindows+Intelというプラットフォームによってコモディティ化の道を進んだように、EVもコモディティ化するのではないかという懸念である。

「欧州には基幹モジュールを提供するメガサプライヤーがいくつもあります。そして、その基幹モジュールを多くの大手メーカー、中小メーカーが採用しています。それでも、各メーカーは優れたアイデンティティを維持している。ことクルマに関していえば、コモディティ化の心配はないと確信しています」

3つのフェーズで進める成長戦略
異業種との協業も視野に入れる

小間氏はGLMの成長戦略を、3つのフェーズに分けて考えている。

フェーズ1では、先端テクノロジーとブランドの確立を重視している。エキゾチックカーと呼ばれるジャンルでとがった商品をつくれば、大きな台数にはならないものの、高価格で買ってくれるユーザーがいる。

「こうしたビジネスモデルは、実は部品メーカーにとってもメリットがあります。大手メーカーにはまだ供給できない先端部品でも、GLMなら買ってくれるかもしれないと部品メーカーは思うでしょう。当社としても、多少値段が高い部品でも、性能に貢献するものなら活用したいと考えています」

フェーズ2が、先に述べたプラットフォームビジネスである。プラットフォーム全体でなくても、車台またはパワートレインの提供という形態もあるだろう。

「世界的に、自動車工場の生産能力は余っています。つまり、ファシリティを使うことに寛容な環境がある。そういう工場を借りて、パワートレインや車台を生産し、新興メーカーなどに供給することができるのではないかと考えています」

フェーズ3は非自動車分野のプレーヤーとの協業だ。GLMには、すでに物流会社やソフトウェア企業などから相談や問い合わせがあるという。

「独自のEVをつくって自社サービスの中で活用したい、あるいは新たなビジネスモデルをつくりたいといった話を聞いています。こうした特殊なニーズに対して、大手メーカーの量産車は不要な機能が多かったり、欲しい機能が欠けていたりして必ずしもマッチしません。当社と組めば最適なEVをつくれるのではないかと考えていらっしゃるようです」

2016年9月のパリモーターショーでお披露目された「GLM G4」

今の段階はフェーズ1だが、着実に前進している。2016年9月に開催されたパリモーターショーでは、第2のモデルとして4人乗りの「GLM G4」のコンセプトカーを発表して話題になった。フェーズ2、フェーズ3での協業を期待して、国内外から京都にやってくるメーカーやディーラー、異業種企業の幹部は少なくない。

「多くの場合、決裁権を持つ経営者が来られます。商談はたいてい月曜日か金曜日ですね。特に海外の方は、京都と日本の文化を楽しみたいと思っているようです」と小間氏。京都発EVベンチャーにとっての地の利は、大学における研究の厚みや優れた部品メーカーの集積だけではないようだ。

小間裕康(こま・ひろやす)

1977年生まれ。京都大学大学院経営管理教育部卒。2000年、株式会社コマエンタープライズを設立し、家電メーカーに対してBPOサービスを提供。2009年、京都大学の松重和美教授が推進する「京都電気自動車プロジェクト」に参画。2010年、GLMを設立。2015年10月、「トミーカイラZZ」の量産を開始。