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イノベーション経営戦略

強く認識すべき2つのトピック──なぜ、あなたはイノベーションを学ぶ必要があるのか
INNOVATION PATH─イノベーションパス─
成果を出すイノベーション・プロジェクトの進め方【第1回】

2016年12月5日

プロジェクトをいかに着地させるか。イノベーションを生む秘けつは、発想術よりプロジェクト手法にあった!――本連載は、創造性の研究・実践で知られる東大i.schoolとコンサルティング企業i.labのノウハウを解説した書籍『INNOVATION PATH─イノベーションパス─』(横田幸信著、2016年、日経BP社)の中から、本サイトの読者に有用と思われる項目を、発行元の許可を得て転載したものである。新市場を生み出すような新製品・サービス・ビジネスのアイデア創出に取り組むビジネスパーソンの一助となれば幸いである。

イノベーションのプロジェクトを語る前に、まずはなぜ今、イノベーションを「あなた」が学ぶ必要があるのか、という問いかけから始めたいと思います。

社会全体や企業活動の中で、イノベーションの必要性についてはさんざん、語られてきました。しかし、ここで私があなた自身に考えていただきたいのが、そのような社会潮流は認めつつも、なぜ「あなた」が自分のこととして今このイノベーションの本を読み、イノベーションについて学ぶ必要があるのかということです。

そのためにも、これからのあなた自身が未来において、どのような暮らしをしているのか、というところから話を始めます。例えば2030年に、あなたはどこに住んでいますか、何歳でしょうか。あなたの奥さん、旦那さん、お子さん、ご両親は何歳ぐらいになっているでしょうか、そして何をして暮らしていますか。できるだけ具体的に考えてみてください。

次にそうした暮らしの中で、「仕事」としてあなたは何をしていますか。今の仕事内容ややり方と比較して、どのような点は同じで、どのような点は異なっているでしょうか。2030年を見据えた際に、あなたの仕事の内容ややり方について、強く認識しておくべきトピックを2つご紹介したいと思います。これは私自身も強く意識していることです。

1つ目のトピックは知能についてです。2030年頃には、まず間違いなく私たちの知性を上回る存在が誕生するでしょう。例えば、米IBMが開発した人工知能(AI)に「ワトソン」があります。ワトソンは2011年に、米国の人気クイズ番組「Jeopardy!」で、2回のゲームを通じて最高金額を獲得し、人間の挑戦者に勝利しました。

このニュースを知って私自身が驚いたのは、人工知能が蓄えた知識の量や検索能力の高さではありませんでした。数値計算や知識の量を競わせると、コンピューターの方が能力の高いのは分かっていました。しかしクイズの内容や出題の仕方など、人間が決めたコミュニケーション文脈の中でコンピューターが高いパフォーマンスを出したということが私にとって驚きだったわけです。

さらには、TV番組という高度にエンターテインメント性が求められる場や文脈において、人工知能がその存在感を出せることも驚きでした。その後も、将棋や囲碁で人間のトップクラスの実力を持つ人との対戦のエンターテインメント性やその勝敗結果によって、人工知能の存在感が社会の中で質的に変化することをますます感じています。能力の向上に加え、その存在感がより人間の文脈に自然に沿うようになってきている。これらの出来事が示唆する、2030年とはどのようなものでしょうか。

2つ目のトピックは身体的な面です。すでに製造現場では、プログラミングされたロボットアームを活用しています。最近では「機械学習」と呼ぶ技術の発展により、人間が実際に動作をして見せて、それをロボットが勝手に学んで動くようになることも可能になってきています。その結果、プログラミングの作業が不要になってきています。これも、1つ目のトピックと同様で、技術的側面での能力向上とともに、より人間のこれまでの生活文脈に近くなってきたことが注目されます。今後は、それこそ人間の「先輩」から身体的な動作を勝手に学び、懸命に働いてくれるロボットが「後輩」として、工場の製造現場に積極的に「配属」されてくるでしょう。

これら2つのトピックが、2030年の自分を考えるにあたって、企業や組織、社会はもちろん、自分自身の仕事を考えた際に、私にはすごく気になります。

英オックスフォード大学のマイケル・A・オズボーン准教授(以下、オズボーン准教授)をご存知でしょうか。オズボーン准教授は人工知能の研究者ですが、社会科学系の研究者とともに、2013年から今後10年程度で米国内のどのような職業がコンピューターに置き換え可能なのかを分析し、「未来の雇用」という論文でその職業リストを発表しました。

同論文では、身体的な面でのロボットへの置き換えは積極的には考慮されていないにも関わらず、かなりの数の職業が今後コンピューターに置き換え可能であることが示唆されていました。これまでの観念では高度な専門性が必要とされてきたいわゆるホワイトカラーのビジネスパーソンの仕事までも、コンピューターで置き換え可能な職業の上位に位置付けられたこともあり、一般の書籍やニュースサイトでも話題になりました。この研究結果で留意していただきたいのは、特定の職業の労働内容を「技術的に代替可能」か否かという観点で考えているところです。技術的には代替可能だとしても、法制度や社会通念の側面で、実際にはコンピューターに置き換わらない可能性も大いにあります。しかし、それと同時にこれも忘れてはいけないのが、「技術的には代替可能」だということです。

この結果を踏まえ、2015年日本においても野村総合研究所(以下、野村総研)がオズボーン准教授と共同研究で、その論文の日本版とも言える調査研究を行い、私も一部に関わりました。野村総研の場合は知能の側面に加え、身体的な面でロボット技術の進化も考慮に入れています。野村総研の研究結果によると、日本では2030年には人工知能やロボットで技術的には代替可能な仕事に、現在半数ぐらいの人が就いています。

現在の日本の職業人口の半数が、わずか15年後には技術的には代替可能となるとは驚くべき結果です。

>> 【第2回】未来のあなたの仕事は、どうなっているのか に続く

*本記事は、書籍『INNOVATION PATH─イノベーションパス─ 成果を出すイノベーション・プロジェクトの進め方』(横田幸信著、2016年、日経BP社)の内容を、発行元の許可を得て転載したものです。無断で再転載することは禁止されています。

INNOVATION PATH─イノベーションパス─ 成果を出すイノベーション・プロジェクトの進め方

横田幸信(よこた・ゆきのぶ)
東京大学i.school ディレクター/i.labマネージング・ディレクター

NPO法人Motivation Maker ディレクター。九州大学理学部物理学科卒業、九州大学大学院理学府凝縮系科学専攻修士課程修了、東京大学大学院工学系研究科先端学際工学専攻博士課程中途退学。修士課程修了後は、野村総合研究所にて事業戦略や組織改革、ブランド戦略などの経営コンサルティング業務に携わり、その後、東京大学先端科学技術研究センター技術補佐員及び博士課程を経て現職。イノベーション教育の先駆的機関である東京大学i.schoolではディレクターとして活動全体のマネジメントを行う。現在は、イノベーション創出のためのプロセス設計とマネジメント方法を専門として、大学及び産業界の垣根を超えたコンサルティング活動と実践的研究・教育活動を行っている。