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イノベーション経営戦略

未来のあなたの仕事は、どうなっているのか──目的意識を持った創造性と多様な協調性が鍵に
INNOVATION PATH─イノベーションパス─
成果を出すイノベーション・プロジェクトの進め方【第2回】

2016年12月19日

プロジェクトをいかに着地させるか。イノベーションを生む秘けつは、発想術よりプロジェクト手法にあった!――本連載は、創造性の研究・実践で知られる東大i.schoolとコンサルティング企業i.labのノウハウを解説した書籍『INNOVATION PATH─イノベーションパス─』(横田幸信著、2016年、日経BP社)の中から、本サイトの読者に有用と思われる項目を、発行元の許可を得て転載したものである。新市場を生み出すような新製品・サービス・ビジネスのアイデア創出に取り組むビジネスパーソンの一助となれば幸いである。

これまで紹介したマクロなトピックや研究結果を踏まえて、2030年のあなた自身がどういう仕事をしているか、再度想像してみてください。2030年に、あなたが今と同じようにビジネスパーソンとして、基本的には人間として、より価値の高い仕事をしているためには、今のうちからあなたの得意な能力の要点を正確に把握し、それを強みにできるように積極的に備えておくことが大切です。

私自身が、人工知能とロボットのトピック、東京大学i.schoolやi.labでの議論、そして昨年の野村総研との未来の職業に関する研究によって確信した、人間の得意な能力として残るものは2つあります。

まず1つ目は、目的意識を持った創造性の発揮こそが大事になるということです。ただルーチン的にアイデアを出すだけではなく、「そこに社会的な問題があるからどうにかしたい」、自分の価値観がそうしたいと言っているから、自分はこういう製品やサービスのアイデアを考えたい」というような主体的な創造性です。2014年夏に東京大学にて開催された「TEDxTodai」(現在は、TEDxUTokyoとして開催)というイベントで、私はスピーカーとして「クリエイティビティ」や「イノベーション」にまつわる話をさせていただきました。

その時に、私が話す内容を翻訳してくださる方にかなり注意深くお願いした点が、「クリエイティビティという用語を翻訳する際は、目的意識を持った創造性と訳してください」ということでした。目的意識が無いクリエイティビティは、遠くない将来に人工知能でも代替可能であると考えているので、その点を強調しました。何か創造的な活動をする際には、どのような社会をつくりだしたいのか、どういう動機で自分やチーム、会社は頑張ろうとしているかなど、創造的努力の向かう先を設定することはとても大切です。そして、その方向性を決めるスキルやマネジメント方法というものは、とても難易度の高いものとも言え、本書の中でも議論を深めたいと思います。

2つ目が、自分にはない能力や体験を持つ他者と協調して価値を高めるような作業です。いわゆる「コラボレーション」と言われるものですが、単なる分担作業ではなく、1つの目的に向かって皆で価値を高めるような協調作業です。この場合には、協調する者同士、非常に繊細で複雑なコミュニケーションやマネジメントが発生します。互いの違いを尊重し、専門性や体験を相互に引き出しあい、先が計算できない不確実な状況に一丸となって邁進することが求められます。時に協調作業の中では、お互いのアイコンタクトで、重要なことを確認し、信頼を深めていく、といったことも大切になります。

また、予定調和ではないある種の「エラー」ともいえる、脈絡のない発言やジョーク、無関係とも思えるミスや偶然の出来事などが、結果としてその作業の価値をぐっと高めたり、ブレークスルーを引き起こしたりすることも多々あります。そういう繊細なコミュニケーションや偶然性の活用が必要とされる協調作業において、2030年の時点で人工知能やロボティクスが人間の輪の中に、人間を代替する存在として入ってくるのはまだ難しいだろうと考えています。

そして、これら2つの人間の得意な能力を活かせる仕事というと、産業界においては新製品・サービスのアイデア創出や事業開発など、イノベーションに関わる仕事になるのです。今では特殊な仕事内容とも思えるイノベーションに関わる仕事というのが、2030年の状況を想像すると、ビジネスパーソンの王道の業務とも言える状況に進化していくのではないでしょうか。これが「なぜ今あなたがイノベーションを学ばなければいけないのか」という問いへの、私なりの考えです。

イノベーションについては様々な書籍も登場し、大きな社会の流行の中で、自分にとってイノベーションを学ぶ意味を見落としがちになります。しかし、「自分ごと」としてイノベーションがなぜ今必要なのかを認識し、これからのあなたの未来の仕事に対して、いかに本書を活用していくかという目的を意識しながら読み進めてもらいたいのです。(図1)

図1 人間が行う未来の仕事

>> 【第3回】人間中心の時代になる に続く

*本記事は、書籍『INNOVATION PATH─イノベーションパス─ 成果を出すイノベーション・プロジェクトの進め方』(横田幸信著、2016年、日経BP社)の内容を、発行元の許可を得て転載したものです。無断で再転載することは禁止されています。

INNOVATION PATH─イノベーションパス─ 成果を出すイノベーション・プロジェクトの進め方

横田幸信(よこた・ゆきのぶ)
東京大学i.school ディレクター/i.labマネージング・ディレクター

NPO法人Motivation Maker ディレクター。九州大学理学部物理学科卒業、九州大学大学院理学府凝縮系科学専攻修士課程修了、東京大学大学院工学系研究科先端学際工学専攻博士課程中途退学。修士課程修了後は、野村総合研究所にて事業戦略や組織改革、ブランド戦略などの経営コンサルティング業務に携わり、その後、東京大学先端科学技術研究センター技術補佐員及び博士課程を経て現職。イノベーション教育の先駆的機関である東京大学i.schoolではディレクターとして活動全体のマネジメントを行う。現在は、イノベーション創出のためのプロセス設計とマネジメント方法を専門として、大学及び産業界の垣根を超えたコンサルティング活動と実践的研究・教育活動を行っている。