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イノベーション経営戦略

人間中心の時代になる──イノベーション=技術革新という誤解
INNOVATION PATH─イノベーションパス─
成果を出すイノベーション・プロジェクトの進め方【第3回】

2017年1月13日

プロジェクトをいかに着地させるか。イノベーションを生む秘けつは、発想術よりプロジェクト手法にあった!――本連載は、創造性の研究・実践で知られる東大i.schoolとコンサルティング企業i.labのノウハウを解説した書籍『INNOVATION PATH─イノベーションパス─』(横田幸信著、2016年、日経BP社)の中から、本サイトの読者に有用と思われる項目を、発行元の許可を得て転載したものである。新市場を生み出すような新製品・サービス・ビジネスのアイデア創出に取り組むビジネスパーソンの一助となれば幸いである。

本書の中で、これまで何度も「イノベーション」という言葉を使ってきました。ここでイノベーションの「定義」や、その意味するところについて具体例を挙げながら明確にしたいと思います。

「イノベーション」という言葉から、皆さんはどのような製品やサービスを思い浮かべますか?イノベーションって何だろう、ということをまず皆さんに考えてもらいたいと思います。私が大学や企業での講演において、この質問をした際によく出てくる回答としては、アップルの「iPhone」やフェイスブックのSNSサービス、トヨタ自動車「プリウス」などがよく挙げられます。本書では、イノベーションについての定義は紹介しますが、特定の製品やサービスがイノベーションか否かというところに、明確なラインは設定しません。読者の皆さんが自分なりに「こういう物はイノベーションだな」ということを頭に描ける程度に定義して、本書を進めていきたいと思います。

イノベーションの定義は専門家の数ほど存在するというのが実情です。そこで、そもそも言葉は多くの人の中で共通理解を得ていて意味をなしますので、ここでは、集合知によってその記述内容が絶えず品質向上していく「Wikipedia」に掲載されている定義を引用してみたいと思います。

イノベーション(英:innovation)とは、物事の「新結合」「新機軸」「新しい切り口」「新しい捉え方」「新しい活用法」(を創造する行為)のこと。一般には新しい技術の発明を指すと誤解されているが、それだけでなく新しいアイデアから社会的意義のある新たな価値を創造し、社会的に大きな変化をもたらす自発的な人・組織・社会の幅広い変革を意味する。つまり、それまでのモノ・仕組みなどに対して全く新しい技術や考え方を取り入れて新たな価値を生み出して社会的に大きな変化を起こすことを指す。(2016年6月25日現在)

少々、抽象的な文言が多くはありますが、イノベーションという言葉の意味合いのみならず誤解についても記述されており、私は有用な解説だと思っています。この定義の中で特に大切なのは、イノベーションという言葉は必ずしも「技術の発明」を意味しているわけではない、というところでしょうか。最近はだいぶ少なくなりましたが、新聞や書籍などにおいて「イノベーション(=技術革新)」と記述されることがあります。イノベーションを技術革新の意味だけで解釈してしまうと、それを生み出す可能性を最初から狭めてしまうことになります。現に日本企業の中で特にメーカーは、高度経済成長期からのものづくり分野における「技術革新」での成功体験を引きずり、イノベーション分野でのトレンドともいえるデザイナーの活用や人間中心のアイデア発想の方法論導入などで、世界的に遅れをとっているように思います。技術革新によってイノベーションが生まれることは大いにありますが、必ずしも技術革新がその実現や普及のきっかけではないイノベーションが社会に増えていることも事実です。

例えば、任天堂のゲーム機「Wii」やソーシャルネットワーキングサービスのフェイスブック、タクシー配車アプリの「Uber」、個人間部屋貸し出しサービスプラットフォームの「Airbnb」、アップルの「iTunes」プラットフォームなど、社会に普及し市場でも高い評価を得ている事例が多くあります。なお、人間中心のイノベーションという言葉は、デザインシンキングや「デザイン・ドリブン・イノベーション」(ロベルト・ベルガンディ著より)という言葉で解説されたりすることもあります。(図2)

図2 イノベーションの類型日本経済新聞2009年8月18日「経済教室」(堀井秀之執筆)を基に筆者作成

イノベーション=技術革新という誤解は、製品・サービス開発プロセスの立脚点を技術開発だけに頼ってしまうことにつながります。また、その言葉の誤解は、現在の市場において必須なことともいえるビジネスモデル自体の刷新やユーザープラットフォームの構築などについても、日本企業から考察を深める機会を奪ってきたように思います。日本においても、イノベーションの意味合いを技術革新のみならず、他の要素に立脚してアイデアを生み出したり、新しい普及モデルとともに社会に提案することにシフトするタイミングに来ているように思います。

技術中心で考えてきた日本企業に対しては、特にその補完概念として「人間中心イノベーション」という考え方と方法論を、個人及び組織に植え付けることが有効であると考えます。これらの方法論の本質は、技術中心と補完関係にある考え方・方法論として「人間中心」であるところです。技術中心と人間中心の考え方は、決して矛盾したり、敵対しているわけではなく、あくまでも相補的かつ相乗的なものとして捉えることが肝要です。詳細は第3章で後述しますが、技術中心の考え方でうまくいかないから、新製品・サービスの開発プロセスを人間中心の考え方にシフトさせれば良いというわけでもありません。どちらが優れているという議論も本質的には意味をなしません。繰り返しになりますが、技術中心だけで考えてきた新製品・サービス創出の取り組みに対して、イノベーションの本当の意味合いに立ちかえり、人・社会の洞察にも注力する考え方と方法論が必要になってきているというのが大切な点です。(図3)

図3 アイデアを考える際に技術と人間の情報は本来補完関係になる

>> 【第4回】イノベーションバイブルとして注目したい書籍 に続く

*本記事は、書籍『INNOVATION PATH─イノベーションパス─ 成果を出すイノベーション・プロジェクトの進め方』(横田幸信著、2016年、日経BP社)の内容を、発行元の許可を得て転載したものです。無断で再転載することは禁止されています。

INNOVATION PATH─イノベーションパス─ 成果を出すイノベーション・プロジェクトの進め方

横田幸信(よこた・ゆきのぶ)
東京大学i.school ディレクター/i.labマネージング・ディレクター

NPO法人Motivation Maker ディレクター。九州大学理学部物理学科卒業、九州大学大学院理学府凝縮系科学専攻修士課程修了、東京大学大学院工学系研究科先端学際工学専攻博士課程中途退学。修士課程修了後は、野村総合研究所にて事業戦略や組織改革、ブランド戦略などの経営コンサルティング業務に携わり、その後、東京大学先端科学技術研究センター技術補佐員及び博士課程を経て現職。イノベーション教育の先駆的機関である東京大学i.schoolではディレクターとして活動全体のマネジメントを行う。現在は、イノベーション創出のためのプロセス設計とマネジメント方法を専門として、大学及び産業界の垣根を超えたコンサルティング活動と実践的研究・教育活動を行っている。