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イノベーション経営戦略

「価値発見力」と「価値実現力」──イノベーション人材の持つべき能力とは
INNOVATION PATH─イノベーションパス─
成果を出すイノベーション・プロジェクトの進め方【第10回】

2017年5月12日

プロジェクトをいかに着地させるか。イノベーションを生む秘けつは、発想術よりプロジェクト手法にあった!――本連載は、創造性の研究・実践で知られる東大i.schoolとコンサルティング企業i.labのノウハウを解説した書籍『INNOVATION PATH─イノベーションパス─』(横田幸信著、2016年、日経BP社)の中から、本サイトの読者に有用と思われる項目を、発行元の許可を得て転載したものである。新市場を生み出すような新製品・サービス・ビジネスのアイデア創出に取り組むビジネスパーソンの一助となれば幸いである。

次に、経済産業省が大企業からイノベーションを生み出すための人材や組織のあり方を調査検討した「新事業創造と人材の育成・活用に関するアンケート調査」の結果、見えてきたイノベーション人材の持つべき能力を紹介したいと思います。この調査を設計・実施した野村総研が、イノベーションを起こした人材「イノベーター」と大企業の一般的ホワイトカラー社員の持つ能力の差異について、アンケート形式での自己評価の結果を比較分析した研究を公開しています。その調査の中では、大企業イノベーションを生み出した「イノベーター」として、NTTドコモの「iモード」を生み出した夏野剛氏など15人、そして企業のホワイトカラー300人が調査対象となっています。アンケートで聞いた能力を大きく分けて、「価値発見力」と「価値実現力」という能力グループで定義しています。それぞれの能力グループに含まれる具体的な能力については、図11を参照いただきたいのですが、私なりには価値発見力は0から1を生み出す「創出」の力、価値実現力は1を10に、そして100にする「実現」と「拡大」の力だと解釈しています。

図11 「イノベーター」と「ホワイトカラー」の能力水準の比較「イノベーションを創造する『人材』像及び『組織』像」
(野村総合研究所、知的資産創造2013年1月号)を基に筆者作成

この調査結果のハイライトは、いわゆる「イノベーター」と定義された人たちは、価値発見力が一般のホワイトカラーとして働くビジネスパーソンと比較して、極めて高い評価となっているところです。この部分は読者の皆さんが持っている仮説通りなのではないでしょうか。一方で、この調査結果で私が最も興味を惹かれた部分は、イノベーターの価値実現力については、実は一般のホワイトカラーのビジネスパーソンと大差がないというか、ほとんど同じ水準だということです。これらの結果から読み取れることとしては、イノベーションといわれる製品・サービスを生み出すためには、ホワイトカラーとして働くビジネスパーソンの持つ能力の中でも、価値を発見する力、すなわち0から1を生み出す能力に課題がありそうだということです。それと同時に、実は価値を実現する力については、一般の社員でも十分な水準にある可能性が高く、価値発見する部分がボトルネックになっていることが示唆されます。

この調査は個人を対象としたものではありますが、第1章で紹介した大企業でイノベーション創出に挑戦する際に持っている、組織としての技術的実現性や流通面でのアドバンテージの話と本質的に関連性があるように思います。大企業は、ベンチャー企業と比較して、組織的な価値実現力はもともと高い水準にあるので、組織的に価値発見力を高めることができるならばボトルネックが解消し、イノベーションが継続的に生み出せる組織に質的に変化できるのではないかというポジティブな仮説が浮かび上がります。

>> 【第11回】コンサルタントとしての能力指標とステージ、役割の考え方 に続く

*本記事は、書籍『INNOVATION PATH─イノベーションパス─ 成果を出すイノベーション・プロジェクトの進め方』(横田幸信著、2016年、日経BP社)の内容を、発行元の許可を得て転載したものです。無断で再転載することは禁止されています。
*東京大学i.schoolは、そのイノベーション教育・研究活動をさらに進化させるべく、2017年4月から法人に移行し、一般社団法人i.schoolとしてイノベーション実現に向けた新たな取り組みを行っています。

INNOVATION PATH─イノベーションパス─ 成果を出すイノベーション・プロジェクトの進め方

横田幸信(よこた・ゆきのぶ)
東京大学i.school ディレクター/i.labマネージング・ディレクター

NPO法人Motivation Maker ディレクター。九州大学理学部物理学科卒業、九州大学大学院理学府凝縮系科学専攻修士課程修了、東京大学大学院工学系研究科先端学際工学専攻博士課程中途退学。修士課程修了後は、野村総合研究所にて事業戦略や組織改革、ブランド戦略などの経営コンサルティング業務に携わり、その後、東京大学先端科学技術研究センター技術補佐員及び博士課程を経て現職。イノベーション教育の先駆的機関である東京大学i.schoolではディレクターとして活動全体のマネジメントを行う。現在は、イノベーション創出のためのプロセス設計とマネジメント方法を専門として、大学及び産業界の垣根を超えたコンサルティング活動と実践的研究・教育活動を行っている。