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イノベーション経営戦略

コンサルタントとしての能力指標とステージ、役割の考え方──ドラクエ流、HPとMP、職業とは
INNOVATION PATH─イノベーションパス─
成果を出すイノベーション・プロジェクトの進め方【第11回】

2017年6月14日

プロジェクトをいかに着地させるか。イノベーションを生む秘けつは、発想術よりプロジェクト手法にあった!――本連載は、創造性の研究・実践で知られる東大i.schoolとコンサルティング企業i.labのノウハウを解説した書籍『INNOVATION PATH─イノベーションパス─』(横田幸信著、2016年、日経BP社)の中から、本サイトの読者に有用と思われる項目を、発行元の許可を得て転載したものである。新市場を生み出すような新製品・サービス・ビジネスのアイデア創出に取り組むビジネスパーソンの一助となれば幸いである。

これまでは「イノベーション人材」として必要となる要素やスキルセットに焦点を当てて解説を行ってきました。この章の最後に、i.labがイノベーション創出を支援する「イノベーション・コンサルタント」としてどういった要素やスキルセットに着目して、人員配置や人材育成をしようとしているのか紹介をしたいと思います。コンサルタントとしての能力要件とはなっていますが、企業の中でイノベーション・プロジェクトのコアメンバーを任される方は、おそらくは同じような能力が必要となるのではないかと考えています。

皆さんは、「ドラゴンクエスト」(以下、ドラクエ)というゲームをご存知でしょうか。そのゲームの中では、勇者や戦士、魔法使い、僧侶など個性的な職業につく人たちが一つのパーティを形成し、魔王を倒すことを目指します。体力を表すヒットポイント(HP)と魔法力を表すマジッックポイント(MP)が個人の基礎能力となっています。メンバーはゲーム中の経験値が上がると、レベルアップしていき、基礎能力が上がったり、職業によっては高度な魔法を覚えたりします。

i.labの人材マネジメントは、ほとんどドラクエと一緒と考えていただいて結構です。i.labのコンサルタントの基本能力は「マネジメントスキル」(ドラクエのHPに該当)、「クリエイションスキル」(ドラクエのMPに該当)、そしてi.labオリジナルの「スペシャルスキル」(SPとする)で表現されます。

マネジメントスキルとは、コンサルタントとして最も基盤となるもので、プロジェクト設計やタスク設計、タスク分担、スケジュール管理、顧客コミュニケーション、プロジェクトの方向性への意思決定などの基礎能力を意味しています。クリエイションスキルとは、アイデアを出すスキルに限定せず、調査において洞察を導き出す力、アイデアを洗練させる力、創造的成果物の品質チェックなどの、創造性に関連した基礎能力を意味しています。

最後に、スペシャルスキルについては、スタッフごとに何かその人となりの個性を伸ばすことを支援するために独自の基礎能力を設定することができます。例えば、私のSPは、イノベーション教育に関連した人を育てる基礎能力や経営者としてのディレクションの基礎能力でしょうか。他のスタッフのSPでは、アート的な美しい作品を生み出す基礎能力、他者から共感を得る素晴らしい写真を撮影する基礎能力、建築家のように物事を論理と感性の調和で考えられる能力など、あまり厳密には定義せずに比較的自由に設定してもらっています。

図12 i.labスタッフの基礎能力のレベル分け

マネジメントスキルとクリエイションスキルについては、レベル0からレベル3までの4段階でその必要水準が定義されており、図12のように整理されています。この両方のマネジメントとクリエイションはあくまでもイノベーション・プロジェクトに関連したものなので、一般的な業務の中で使う能力と一様に比較できませんが、読者の方にイメージを持っていただくためにも、少し一般的なビジネスパーソンの状況と比較しておきたいと思います。

クリエイションスキルについては、レベル0が一般的な若手ビジネスパーソンの水準だと考えてもらえると良いかと思います。そして、一般的な若手ビジネスパーソンがi.schoolで1年間学んでいただくと、レベル1に到達するようなイメージで、レベル2ですと企画系の会社や部署で自分なりの方法論を活用しながら毎日アイデアを出すような業務を5〜10年経験している方のイメージです。マネジメントスキルについては、レベル0は新入社員レベル、レベル1が30歳前後の若手ビジネスパーソンの水準、レベル2が管理職になる直前くらいの中堅社員のイメージでしょうか。レベル3については、数年単位の取り組みに対して自らゴール設定しそのプロセスを設計及び実行したような、起業や大企業内での事業開発の経験があるような人材のイメージでしょうか。

i.labのプロジェクトは、主にマネジャーとリーダー、メンバーによって構成されています。また、適宜アシスタントの立場で、インターンの大学院生が入ります。上記のマネジメントとクリエイションのスキルについてはそれぞれ独立に段階が決まっていますが、平均としてレベル3に近い人材がマネジャーとしてプロジェクトの全てに責任を持ちます。また平均的にレベル2の人材がリーダーとして、プロジェクトの実行面で活躍してもらいます。

冒険するパーティの中での4つの職業

次に、ドラクエで言うと勇者や戦士、魔法使い、僧侶のように、職業に対応する概念について紹介したいと思います。

イノベーション・プロジェクトの中で必要となる職業属性として、ビジネス、エンジニアリング、デザイン、リサーチの4つを設定しています。どの職業の人もプロジェクトを通して参画してもらうことが多いですが、プロセスの中で最も活躍するフェーズがあり、そのことは本人もよく認識してもらい濃淡をつけて参画してもらっています。なお、その人の年齢や経験なども考慮すると、1人の人が一職業というわけでもなく、主たる職業分野がデザインで、副職業分野がリサーチなどもありえます。かくいう私の場合は、ドラクエで言うと勇者ポジションを狙っており、各職業のいいとこ取りをしてバランスを意識しながら全体的にかじっているようなイメージです。

この職業のレベルについても、基礎能力と同じくレベル0からレベル3までの4段階でその達成水準が定義されており、図13のように整理されています。基礎能力の時と異なり、各職業で専門性が高まっている人を、その人とは異なる専門性の人だったり、その人よりもその分野での専門性が低い人が評価することは容易ではありません。そのため、この職業レベルについては、ある意味「社会での位置付け」を活用して、そのレベルを定義しています。

図13 i.labスタッフの職業専門性のレベル分け

これらの基礎能力と職業分類、それぞれの到達段階はi.lab独自のものではありますが、企業の中でプロジェクトメンバーを集める際にも、役に立つ部分は多いように思います。職業分類に関して言うと、私の経験上は、ビジネスとエンジニアリング、デザイン、リサーチはバランスよく集めたほうがよいと思っています。クリエイションに多様性が必要であることは広く知られていますが、さらに、普段の業務の中ではなかなかコミュニケーションをとる機会が少ない人たちとの仕事は、それ自体がメンバーのやる気を高めてくれたりもします。また、職業分類の段階で言うと、プロジェクトのコアメンバーはレベル2の人を中心として、そのアシスタント的にレベル1の人で構成すると、バランスが良く機動力も高まるように思います。そして、プロジェクトの進展や創出されたアイデアの方向性を考慮して、適宜レベル3の人にスポット的に協力を依頼すると、機動力を維持したままアイデア品質を高めることができます。

イノベーション・プロジェクトの体制とこのメンバー構成・役割については、第6章でまた触れたいと思います。

>> 【第12回】アイデアを生み出すための方法論の整理と評価 に続く

*本記事は、書籍『INNOVATION PATH─イノベーションパス─ 成果を出すイノベーション・プロジェクトの進め方』(横田幸信著、2016年、日経BP社)の内容を、発行元の許可を得て転載したものです。無断で再転載することは禁止されています。
*東京大学i.schoolは、そのイノベーション教育・研究活動をさらに進化させるべく、2017年4月から法人に移行し、一般社団法人i.schoolとしてイノベーション実現に向けた新たな取り組みを行っています。

INNOVATION PATH─イノベーションパス─ 成果を出すイノベーション・プロジェクトの進め方

横田幸信(よこた・ゆきのぶ)
東京大学i.school ディレクター/i.labマネージング・ディレクター

NPO法人Motivation Maker ディレクター。九州大学理学部物理学科卒業、九州大学大学院理学府凝縮系科学専攻修士課程修了、東京大学大学院工学系研究科先端学際工学専攻博士課程中途退学。修士課程修了後は、野村総合研究所にて事業戦略や組織改革、ブランド戦略などの経営コンサルティング業務に携わり、その後、東京大学先端科学技術研究センター技術補佐員及び博士課程を経て現職。イノベーション教育の先駆的機関である東京大学i.schoolではディレクターとして活動全体のマネジメントを行う。現在は、イノベーション創出のためのプロセス設計とマネジメント方法を専門として、大学及び産業界の垣根を超えたコンサルティング活動と実践的研究・教育活動を行っている。