close

イノベーション経営戦略

アイデアを生み出すための方法論の整理と評価――イノベーションのポイントはプロセスの業務設計にある
INNOVATION PATH─イノベーションパス─
成果を出すイノベーション・プロジェクトの進め方【第12回】

2017年7月24日

プロジェクトをいかに着地させるか。イノベーションを生む秘けつは、発想術よりプロジェクト手法にあった!――本連載は、創造性の研究・実践で知られる東大i.schoolとコンサルティング企業i.labのノウハウを解説した書籍『INNOVATION PATH─イノベーションパス─』(横田幸信著、2016年、日経BP社)の中から、本サイトの読者に有用と思われる項目を、発行元の許可を得て転載したものである。新市場を生み出すような新製品・サービス・ビジネスのアイデア創出に取り組むビジネスパーソンの一助となれば幸いである。

ヒット商品などが生まれると書籍や記事などでその理由を分析し、「ネーミングが良かった」「時流に乗った」「デザインが良かった」など、ある一面や一点に過度にスポットを当てて単純化することで、耳目を集めている分析事例が多く見られます。その話自体は、読み物としては面白いのですが、自分たちのプロジェクトの設計やマネジメントに生かせるかというと、正直あまり得るものがありません。

なぜなら、ある製品・サービス・ビジネスのアイデアが生まれ、それが形になり、実際に社会に提案され、十分に普及したのちイノベーションと呼ばれるようになるまでには、当然ですが道のり(Path)があります。その連続性の中で、意味のある個別の取り組みを調和的に設計し実施するところに、成果の品質を決める本質があるためです。この調和的な取り組みの総体を私は「事業開発戦略」と呼んでいます。

第3章では、その事業開発戦略の中でも特にアイデアを生み出す領域のプロセスに焦点を当てて、解説します。また第4章は、アイデア創出以降にいかにしてアイデアの品質を上げながら実現にまでつなげるかという点について、そのプロセスの実例を挙げながら解説します。

まずはイノベーションにつながる道のりを考えてみたいと思います。何らかの情報があった時にそれをつなぎ合わせ、意味のある新しい結合が見出されたことを、人はアイデアが生まれたと言います。これを0から1と表現します。そのアイデアを、技術的な課題や生産面の課題、法的な課題、流通面の課題などを乗り越えたのち、世の中に製品やサービス、事業として利用できる形で発売するプロセスも重要です。その過程を仮に1から10のプロセスと呼びます。そして、新しい商品やサービスが世の中に登場し、普及していくプロセスを10から100とします。それぞれに言葉を設定するなら「創出」「実現」「拡大」のプロセスといえるでしょう。(図9)

図9 イノベーションへの道のり本連載【第8回】から再掲

それぞれに学べる場所や方法論があり、拡大を学ぼうとすると、経営学の中でもより実践的なビジネススクール(MBA)が効率的でしょう。実現の場合は経営学では技術経営分野(MOT)かもしれません。他にも工学教育、アントレプレナーシップ教育があります。近年は、創出の分野が注目を集めていますが、イノベーションスクールやデザインスクールなどが同領域にあたり、i.schoolもそこに該当します。

最近のイノベーション業界は、0から1の創出の分野に注目が集まっています。コンサルティング会社や大学研究者、学生を見ていても0から1のところに感度が高い人が、特にこの5年ぐらいで増えてきています。2000年くらいから、一時期は実現の分野で特にMOTに注目が集まっていたのですが、今は創出領域、またそれらの丁度融合した領域に注目がシフトしているように思います。

例えば、米スタンフォード大学MBAの卒業生の人気就職先ランキングが昔はマッキンゼーやボストンコンサルティンググループ、ベインなどの戦略コンサルティング会社が上位だったのですが、今はデザイン系のコンサルティング会社が上位に来ているというのもこの傾向を表しているのではないでしょうか。また、ここ2〜3年で大規模な戦略系コンサルティング会社や広告代理店が、まだ業界として小さめのデザイン系のコンサルティング会社を買収する事例が続いています。例えば、アクセンチュアのFjord、マッキンゼーのLunar、そして日本の広告代理店の博報堂によるIDEOの買収などです。

第1章でソニーの新事業開発プログラム「SAP」の事例を取り上げながら、大企業が持つ「実現力」のポテンシャルについて解説しました。また、第2章ではイノベーション人材に必要となるスキルセットの中で、価値を実現する力ではなく、価値を発見する力にどうやら課題があるようだという話をしました。人材として、価値を発見する能力に長けた人材、つまり創出の領域で活躍する人材を増やしていくことは必要です。また、それと同時に個人の能力だけではなく、組織としての創出能力を高めていくことも大切です。組織としての創出能力の高め方として、最も効率のよいアプローチは、創出のための業務プロセスを新たに設計・導入してしまうことだと私は考えています。

イノベーション人材に関する経済産業省の調査や検討結果を紹介しましたが、その焦点の当て方は、概ね日本企業が採っている一般的アプローチと似ているように思います。私の理解では、①イノベーション人材育成、②イノベーションのための組織体制(社内及び社外とのエコシステム含む)づくり、といえるでしょう。この2つは確かに大事ですが、根本的に大切なピースが抜け落ちており、それも当てはめないと組織としての事業開発力は高まってこないと私は思います。その欠けているピースこそが、第3章と第4章のテーマでもある「プロセス」という観点です。

大企業には、製品やサービスを効果的に届ける拡大の業務プロセスは存在します。また、ソニーの事例のように、実現についても、ある程度活用可能な業務プロセスが存在しています。例えば、食品メーカーの場合では、コンセプトから見直し、これまでとは別カテゴリーに商品を挑戦的に投入するとしても、既存カテゴリーで新商品を開発してきた経験やプロセスがあります。そのため、商品カテゴリーが変わったとしても、アイデア創出以降については組織として業務プロセスのお手本は存在するわけです。

最近では、ソニーや三井不動産など、一部の日本企業経営層においては、世界的大企業やコンサルティング会社が創出のための業務プロセスを組織導入していることを認識し始め、自社でも行動を起こし始めました。しかし、他の多くの企業においては依然として創出のための業務プロセスが設計・導入されていない中で、掛け声だけで非効率的にイノベーションを追い求めているような状況ではないでしょうか。

>> 【第13回】アイデアを生み出すための4つのアプローチ に続く(後日公開)

*本記事は、書籍『INNOVATION PATH─イノベーションパス─ 成果を出すイノベーション・プロジェクトの進め方』(横田幸信著、2016年、日経BP社)の内容を、発行元の許可を得て転載したものです。無断で再転載することは禁止されています。
*東京大学i.schoolは、そのイノベーション教育・研究活動をさらに進化させるべく、2017年4月から法人に移行し、一般社団法人i.schoolとしてイノベーション実現に向けた新たな取り組みを行っています。

INNOVATION PATH─イノベーションパス─ 成果を出すイノベーション・プロジェクトの進め方

横田幸信(よこた・ゆきのぶ)
東京大学i.school ディレクター/i.labマネージング・ディレクター

NPO法人Motivation Maker ディレクター。九州大学理学部物理学科卒業、九州大学大学院理学府凝縮系科学専攻修士課程修了、東京大学大学院工学系研究科先端学際工学専攻博士課程中途退学。修士課程修了後は、野村総合研究所にて事業戦略や組織改革、ブランド戦略などの経営コンサルティング業務に携わり、その後、東京大学先端科学技術研究センター技術補佐員及び博士課程を経て現職。イノベーション教育の先駆的機関である東京大学i.schoolではディレクターとして活動全体のマネジメントを行う。現在は、イノベーション創出のためのプロセス設計とマネジメント方法を専門として、大学及び産業界の垣根を超えたコンサルティング活動と実践的研究・教育活動を行っている。