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IoT

IoTによる新たな価値を社会全体で活用する
「産学官エコシステム」の姿

2016年7月25日

IoTによる価値創造を実現し、公共サービスの向上やビジネス拡大などスマート社会の実現を見据えた課題を解決するためには、産学官の垣根を越えた多様なステークホルダーの共創が欠かせない。個々の組織や企業の現場における草の根的な活動を、グローバルにつないでいく新たなパートナーシップのあり方が求められている。

“ICT+防災”の異分野融合で
オープンイノベーションを推進

IoTの将来に向けてあるべき仕組みを構築し、社会全体として新たな価値を共創していくために、学術研究機関や行政、そして民間企業は、それぞれどんな役割を担い、連携していくことが求められるのだろうか。

まず取り上げたいのは、2016年4月14日に起こった熊本地震における災害対応の現場から浮かび上がってきたIoTの課題である。

現地では地震の発生直後に政府による災害対策本部が立ち上げられ、「何が起こっているのか」を把握するための情報の集約・一元化が図られた。そこでは、内閣府をはじめ各省庁が一体となり、迅速な初動態勢を取り活動していた。その動きを支援する中心的な役割を担ったのが、国立研究開発法人防災科学技術研究所である。同研究所 先端的研究施設利活用センター準備室長 兼 気象災害軽減イノベーションセンター グループリーダー(土砂災害予測)である酒井直樹氏は、各所に存在する情報の一元化と時間を追って変化していく情報の的確な把握に対する重要さを指摘する。

しかし、被災地で必要とされる情報は常に一定ではない。災害の発生直後は広域の被害状況を把握することが急務であるが、二次災害を防ぐためには、地区や集落といったより狭い範囲での災害情報を把握し、適切なタイミングで、適切な人に届ける必要が出てくる。「時間を追って変化していく情報を、どこから、どうやって集めるかが課題」と酒井氏は語るとともに、「防災においては、復旧の経過とともに“多”から“個”に対応したリスクコミュニケーションが重要となります」と強調する。

そうした中で、特にIoTによる価値創出が期待されているのが、現地調査におけるモニタリングデータの活用だ。発生している現象のメカニズムを理解し、現地の状況を客観的なデータから分析するとともに、対象地域の住民が避難などの判断および行動を迅速に行えるように、可能な限り分かりやすい形での情報提供を行うのである。

モニタリングデータの活用

出典:国立研究開発法人 防災科学技術研究所

この課題に向けて、防災科学技術研究所としても大型降雨実験施設を拠点とする産学官の連携研究を精力的に進めており、「“ICT+防災”の異分野融合によるオープンイノベーションを目指します」と酒井氏は語る。

センサーネットワークを
地域モデルとして横展開

産学官が連携し、防災を含めたIoTの価値を創出していく今後の公共サービスはどうあるべきか――。その先進モデルを提示しているのが、長野県塩尻市である。

センサーネットワークによる地域児童の見守り事業を推進してきた塩尻市は現在、その基盤の横展開を図っている。同市企画政策部情報政策課長 CTO(最高技術責任者)であり総務省の地域情報化アドバイザーを務める金子春雄氏は、次のように述べる。

「IoTの社会的要求の高まりに伴い、そのソリューションを電気、ガス、上下水道などの公共サービスにも適用していこうという動きが爆発的に広がっています。そうした中、センサーネットワークのプラットフォームについても、信州大学や東京大学の協力を得ながらブラッシュアップを図り、今後はIoTの基礎技術やセキュリティ技術の開発を含めた横展開を進めつつ、新たな地域モデルとして実践していく計画です」

IoTによって、これまでにないオープンデータやビッグデータが得られるが、行政だけではその有益な分析や活用は難しい。「そこで公共サービスというスキームのもとに、より多くの企業や研究機関が参入し、パートナーシップを発揮していくエコシステムを確立することが急がれるのです」と金子氏は語る。

具体的には、データポータルの構築やデータセットにアクセスするためのAPI開発、ビジュアライゼーションといった領域にビジネスが発生する。さらにその先に、農家向け収入保障保険や不動産高度情報サービスなど、オープンデータを活用した新サービスが広がっていくというのが金子氏の見通しだ。

長野県塩尻市のデータポータルと新サービス

出典:長野県塩尻市

少子高齢化に伴う人口縮小や財政縮小、資源縮小などの課題に直面している我々が目指すべきは、スマート社会の実現だ。そのためにもICTを活用した公共サービスの高度化と効率化が不可欠で、「従来の行政主導による公共サービスの提供から、パートナーシップ主導による公共サービスの提供へと転換を図っていく必要があります」と金子氏は説く。

民間企業が主導する
パートナー連携の新たな形

社会からの要請に呼応し、パートナーシップに基づいたIoT活用には民間企業も積極的な取り組みを見せている。

IoT、AI、ロボティクスの3領域の技術を進化させることで製造現場の革新を目指すオムロンは、2014年から2015年にかけて「実装ライン見える化による生産改善」「見える化の海外展開(クラウド活用)」「データ分析の進化(品質革新)」を実証。これにより生産性を30%向上するほか、改善点の抽出時間を従来の1/6に短縮するという成果を上げた。

そして2016年からは、「データ分析の進化(予兆保全)」「データ価値拡大」をテーマとする実証へと踏み出した。同社インダストリアルオートメーションビジネスカンパニー 商品事業本部 企画室 拡業推進部長の本条智仁氏は、「製造現場のデータを経営指標としても活用していきたいのです」と、この新たなステップにおける目標を示す。

実現するためにはOA(Office Automation)系とFA(Factory Automation)系の双方のデータを融合した分析が必要だが、これまで両者には深い溝があり相互乗り入れは難しかった。そこで同社が着目したのがクラウド活用であり、「パートナー企業とオープンイノベーションで連携し、工場や企業全体、さらには産業を見据えたデータ活用を推進していきます」と本条氏は語る。

オムロンのデータ価値拡大に向けた取り組み

出典:オムロン

ネットワーク技術でICT業界をリードするシスコシステムズも、「製造業」「公共インフラ」「スマートシティ」「交通」「セーフティ・治安」の5つを“キラー領域”として位置づけ、シームレスなパートナー連携を進めていく考えだ。同社CTO兼IoEイノベーションセンター担当の濱田義之氏は、「IoTの価値創造のステップが、コネクテッドシングスからコネクテッドサービス、さらにコネクテッドエコシステムへと移行していくにつれ、パートナー連携がますます重要になっていきます」と語る。

IoTの価値創造のステップ

出典:シスコシステムズ

ちなみに同社は京都府と包括的に提携し、スマートシティプロジェクトを進行中である。さらに、慶應義塾大学環境情報学部の徳田英幸教授と産学共同研究を進めるほか、IoTのエコシステム構築を目指す「OpenFogコンソーシアム」でも主導的な役割を担っており、新たなパートナー連携の形が築かれつつある。