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経営戦略

オープンマインドで推進する
食品物流のプラットフォームづくり
商品で競争し、物流は共同で

2017年4月17日

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トラックドライバーの不足や多頻度少量配送の拡大などにより、物流の危機が深刻化している。食品物流の分野では「モノを運べない」という事態も起きた。従来通りのやり方を続けていたのでは、ますます問題が大きくなる。そんな危機意識が食品メーカーを動かした。6社が集まって立ち上げた「F-LINEプロジェクト」は、北海道における共同配送などで効果を実証した。今後、九州でも同じ取り組みを開始する予定だ。また、他の食品メーカーを巻き込んだ取り組みも強化している。

物流の構造的な課題を背景に
「モノがあっても運べない」事態も

日本の物流は今、大きな危機に直面している。労働力人口の減少を背景に、トラックドライバーの確保は難しくなりつつある。輸送単位の小口化、多頻度少量配送の拡大などの動きもある。また、ドライバーの過重労働に対する社会の目は厳しさを増しており、労働環境に対する法規制も厳格化の方向にある。同時に、物流コストは上昇基調だ。

こうした中で、「倉庫にモノがあるのに、運べない」という事態が、数年前から加工食品の分野で現実のものになった。

味の素株式会社
物流企画部長
堀尾仁氏

「最初に顕在化したのは2013年末。年末はいつも荷量が増えるのですが、この年は特にトラック確保が難しく、お客様のご要望通りに商品を運べなくなりました。その数カ月後、2014年3月には消費税アップ直前の駆け込み需要に対応できず、トラックを十分に用意できませんでした」と味の素の物流企画部長である堀尾仁氏は打ち明ける。

「物流危機」は構造的な問題によるところが大きい。将来を考えれば、抜本的な解決策を講じる必要があるのではないか。そうした切実な危機感を背景に、食品メーカーが結集した。それが「F-LINEプロジェクト」である。参加したのは味の素、カゴメ、日清オイリオグループ、日清フーズ、ハウス食品グループ本社、Mizkan(ミツカン)の6社である。

課題意識そのものは、実は以前から醸成されていた。「各社のトップが集まる会合などで、5~6年前から『このままでは物流を維持できなくなる』といった話が交わされていたようです」と堀尾氏は語る。各社経営層の危機感がベースにあるという点でF-LINEプロジェクトはトップダウンの色合いが強く、このことが大きな推進力を与えている。

F-LINEプロジェクトが本格的にスタートしたのは2014年春。以来、6社の物流を担当する部長クラスが集まる運営部会が毎月2回のペースで行われており、2017年3月14日には47回目を数えた。その運営部会の上には各社の担当役員で構成されるTOP会が置かれている。

「競争は商品で、物流は共同で」
北海道で始まった共同配送で成果

F-LINEは「Food Logistics Intelligent Network」の頭文字だ。運営部会での議論をベースに、まず基本理念と目的などを定めた。F-LINEプロジェクトが目指すのは「持続可能な食品物流の実現」。その基本理念には「競争は商品で、物流は共同で」行い、「物流インフラの社会的・経済的合理性を追求する」とある。6社が直接競合する商品カテゴリーは比較的少ないが、同じ加工食品を扱うライバル同士だ。ライバルではあるが、物流は非競争領域と見定めた。

「決して6社に閉じた取り組みではなく、他の食品メーカーも参加してくださいというオープンマインドのスタンスです」と、堀尾氏は今後の参加企業の拡大を期待している。

F-LINEプロジェクトの中心的なテーマは共同配送だが、そのスコープは前工程に当たる幹線共同化や後工程の製配販連携にも広がっている。

出所:味の素

物流の効率という観点で見ると、面積が広く人口密度の低い北海道には課題が多い。メーカーごとの倉庫から全道にモノを運ぼうとすると、積載率は低くなりがちだが、6社が集まれば効率的な配送が可能になる。そんな狙いから、F-LINEプロジェクトの共同配送はまず北海道で始まった。

2016年2月からは6社の在庫拠点を合計2カ所に集約し、卸売企業の倉庫や小売チェーンの流通センターなどに共同配送する形に変えた。

「2カ所の在庫拠点のうち1つは日本通運のもの。もう1つは当時味の素物流の子会社だった北海道エース物流が利用していました。この北海道エース物流は、2017年3月にF-LINE株式会社という会社に生まれ変わりました」と堀尾氏。味の素グループだった北海道エース物流を、味の素とカゴメ、日清フーズ、ハウス食品グループ本社の4社で買い取った形だ。

「共同出資にした方が、意思決定の迅速化や効果的な取り組みができるとの判断です」と堀尾氏は続ける。共同配送には6社が参加しているが、出資となるとハードルが高い。各社の戦略や考え方の違いもあって、F-LINE株式会社には4社が出資することになった。これも固定的なものではなく、今後株主としての参加を希望する食品メーカーがあれば柔軟に見直すこともあり得る。

北海道での先行的な取り組みは一定の効果を上げた。共同配送実施後の2016年5月から7月の実績値では配送件数とCO2(二酸化炭素)排出量が、ともに約16%削減された。配送する商品が集約されたことで、配送するトラックが大型化。4トン車が減り、10トン車が増えて1回の配送が効率化した。同時に平均積載効率も上昇したという。

こうした成果は社会的にも注目を集めている。2016年12月には、グリーン物流パートナーシップ会議(主催:日本ロジスティクスシステム協会・日本物流団体連合会・経済産業省・国土交通省)の平成28年度優良事業者表彰において、F-LINEプロジェクト参加企業は国土交通大臣表彰を受けた。

「手探り、手作りで取り組んできたプロジェクトですが、表彰などの評価を得たことで、関係者の間でより自信が強まったと思います。それが、次のステップに向かう力になっています」と堀尾氏は言う。手作りで進めてきたプロジェクトに、お手本があったわけではない。数多くの壁にぶつかり、1つずつクリアしながら歩みを進めてきたのである。


北海道の共配センター(写真上)と配送トラック

納品伝票、管理指標を共通化
マネジメント標準化で見えてきたこと

「私自身は4、5回目の事務局会議から参加していますが、最初から突っ込んだ話し合いができていたわけではありません。各社とも物流の位置付けや考え方が異なっているからです。少しずつ胸襟を開くことができた理由としては、やはり経営トップの後押しが大きいと思います」(堀尾氏)

F-LINEプロジェクトに対する経営トップの叱咤(しった)激励、サポーティブなコメントなどは、事務局サイドがまとめて味の素社内でも共有している。そのような情報に接することで、周辺部門の社員の間でも物流に対する意識が変わりつつあるようだ。また、社会全体の物流への関心の高まりも大きな意味があるという。

味の素株式会社
物流企画部
スタッフグループ長
平智章氏

「疲弊する物流現場といったニュースが、最近は増えています。こうした状況が社内、そして社会全体の物流への関心を高めています。物流効率化などの提案を聞いてもらいやすい環境になったともいえるでしょう。個別課題に対処する上では大変なことも多いのですが、やりがいを感じています」と、味の素の物流企画部シニアマネージャーである平智章氏は話す。

 山積する個別課題のうち、プロジェクト初期に取り組んだことの1つが納品伝票の統一だった。

「納品伝票は各社バラバラでした。2枚つづりもあれば4枚つづりもあり、大きさもA4やB5など様々。これを共通化するために、かなり議論を重ねました」と堀尾氏。各社が使い続けてきた伝票の共通化は決して簡単な課題ではなかったが、これを実行したことで納品先、つまり顧客サイドの検収作業の効率化につながった。平氏は「チェック作業がとてもラクになったと喜ばれました」と言う。

また、共同配送の稼働管理マネジメントの共通化も重要なテーマである。顧客先への配送を委託している運送会社のサービス品質をどのように管理するか。以前は6社ごとに異なる指標で管理していたのだが、これも共通化した。

指標を共通化し見える化することで、改善が促進されることもある。「例えば、締め切り時間を過ぎてからの出荷依頼は運送会社の負荷を高めるので望ましいことではありません。けれども、現場では締め切りを守れないこともありました。この実績を見える化したところ、2016年10月から5カ月連続でゼロになりました」と堀尾氏。運送会社から「よい荷主・選ばれる荷主」と見られるようになれば、かつて経験したような物流がボトルネックになるリスクは低下する。

今後は稼働管理マネジメントを運用しながら、適宜見直していくという。

共同配送の前後のプロセス
幹線共同化、製配販連携における施策

以上では、具体的な施策が先行的に行われた北海道での共同配送を中心に説明した。次に、幹線共同化と製配販連携の取り組みについても見ておきたい。

まず、幹線の共同化。例えば、味の素とMizkanが共同で行っている鉄道往復輸送がある。味の素は関東から関西、ミツカンは関西から関東への輸送量が多く、個社レベルでは逆向きの輸送効率が低かった。そこで、2社共同で鉄道輸送を利用することで、往復ともに積載率を向上。効率的なモーダルシフトにより、CO2削減などの効果を得た。

味の素とMizkanは共同で鉄道輸送を利用している

北海道の在庫拠点に運ぶ際に、複数社の商品を1つのコンテナに混載するという取り組みもある。現在実施されているのは、「味の素+ハウス食品」、「日清フーズ+Mizkan」の2系統。ともに、北関東から北海道への幹線ルートで、加工食品を混載して運ぶというものだ。混載することにより荷量が増えるので、従来の小型コンテナからより大型のセミトレーラーに切り替えることができた。荷物の積み下ろしは手作業からパレットになり、積み下ろしに要する時間はそれぞれ約半分に短縮された。

ラックの荷台(コンテナ)には複数社の商品が混載される

後工程に当たる製配販の連携は、食品メーカーとF-LINE、卸売企業、小売企業が一緒に課題を解決しようという取り組みである。当初は卸売や小売の側に警戒感もあったという。

「食品メーカー6社が集まることで、強い立場で交渉をしようとしているのではないかとの懸念があったようです」と堀尾氏。続けて、平氏はこう補足する。「卸売や小売の皆さんも、物流に関しては私たちと同じ課題を切実に感じています。持続的な物流のための取り組みだと説明すると、多くの方々に共感してもらえました」

製配販連携の分野では、10以上の課題をピックアップして共有。その中には、メーカー単独でできることもある。その1つが、段ボール箱の外装表示の標準化だ。外装表示の位置や表示項目などはメーカーによってバラバラで、それが納入先の検収効率低下などを招いている面がある。これを標準化しようという取り組みだ。

多くの食品メーカーが箱の決まった位置に分かりやすい表示をすれば、検収作業を短時間でスムーズに行える。すでに、いくつかのメーカーは標準表示への切り替えを進めているという。

段ボール箱の外装表示の標準化の取り組み
写真左:以前のデザイン、写真右:標準化デザイン

表示の標準化は、実はSBM会議(食品物流未来推進会議)のテーマの1つでもある。SBM会議とは、F-LINEプロジェクトに参加した6社にキユーピー、キッコーマン食品の2社が加わって2016年5月に発足した。

「F-LINEプロジェクトの取り組みはすべて、SBM会議にもオープンにしています。お互いに知見を持ち合うことで、学ぶことは多いですね」と堀尾氏。

こうした企業の枠を超えた拡張とともに、F-LINEプロジェクトはエリア的な拡張も進める。北海道の次の共同配送エリアは九州と決まった。また、2019年には味の素とハウス食品グループ本社、カゴメの物流子会社の統合も視野に入れている。持続可能な食品物流のプラットフォームづくりという大きなチャレンジは、新しいステージに足を踏み入れつつある。

日本企業の経営スタイルとして、しばしば「自前主義」が指摘される。昨今はオープンイノベーションやコラボレーションなどの文脈の中で、多少の批判を込めて言及されることも多い。自前主義の傾向の強い事業構造の中で、非効率な子会社が温存されてきた側面もあるかもしれない。

今、物流分野の非効率を直視し、「脱自前主義」の方向への変革を目指す動きが一般には保守的と見られる食品業界の中で進んでいる。おそらく他の産業分野、他の機能分野における変革に取り組む企業にとっても、F-LINEプロジェクトの経験から得られる示唆は多いはずだ。

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