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イノベーション農業革新

農水省の「農業女子プロジェクト」、その軌跡と展望
企業との商品・サービス化が相次ぎ、メンバーは564人に

2017年2月23日

農林水産省は、農業者の減少と高齢化に歯止めをかけるべく、若い農業者を増やす様々な対策を講じている。その1つ、女性の農業者を対象にした「農業女子プロジェクト」では民間企業と手を組み、新しい商品やサービスの開発を通じた女性農業者の活躍に成果を出している。このプロジェクトの発足経緯や民間企業とどうコラボレーションを進めてきたかを、同省経営局就農・女性課への取材を通して説明しよう。

写真:農業女子プロジェクト事務局と農業女子メンバーの貫井香織氏(奥中央)

女性農業者たちとのつながりが
農業ビジネスを変える

農林水産省の調査によると、1995年に414万人だった農業就業人口は年々減少し、20年後の2015年に209万7000人まで減少。年齢別で見ると、70歳以上が突出して多く、全体の約47%を占める。次に多いのが65~69歳で約31%。40代以下はわずか約10%だ(農林水産省「農林業センサス」、同省「農業構造動態調査[平成24〜26年]」)。

こうした状況を改善すべく、農林水産省では新規就農者に対する給付金制度をはじめとする様々な対策を講じている。異彩を放つのが、女性の農業者と企業がコラボした「農業女子プロジェクト」だ。2013年11月、同省経営局の就農・女性課が事務局となって始動。初期プロジェクトメンバーの37人は、事務局が把握する各地の熱心な女性農業者に声をかけて集めた。以後、「私の職業は農業です」と言えて「自分の農業をもっと発展させたい」という意欲を持つ女性農業者を全国から募り、2年弱で300人を超え47都道府県を網羅。現在(2017年2月時点)のメンバー数は564人に上る。年齢層は20代〜70代までと幅広いが、30代と40代で全体の8割近くを占めている。

農業女子プロジェクトの主な取り組み

農林水産省
経営局就農・女性課
女性活躍推進室長
久保香代子氏

同プロジェクトを運営する農林水産省経営局の就農・女性課女性活躍推進室長の久保香代子氏は「一般に、農業者というと男性が多いイメージがあるかもしれませんが、実は、女性農業者は約半数を占めています。女性が農業経営に関与することで、経常利益が増加するというデータもあります」と語る。

確かに、女性が経営主か役員、管理職である経営体は、そうでない経営体と比べると経常利益の増加率は71.4ポイントも高い(日本政策金融公庫「平成28年上半期農業景況調査」)。久保氏は「商品を購入してもらうために、女性ならではの消費者視点を生かしたり、ネットワーク力を生かしたりすることが、収益アップにつながるといえるでしょう」と分析する。

農業女子プロジェクトを2013年に企画・発案したのは、当時、広告代理店の博報堂から農林水産省に出向していた勝又多喜子氏だ。勝又氏は、女性農業者のアイデアはこれまでにない新しい商品やサービスの開発につながると判断。プロジェクトを通じ、(1)社会、農業界での女性農業者の存在感を高める、(2)女性農業者自らの意識の改革、経営力の発展を促す、(3)若い女性の職業の選択肢に「農業」を加えることを狙って、女性農業者の思いを商品やサービス開発に生かしてくれる企業を開拓することにした。同省は、事務局として双方を結びつけるコーディネーター役を務めている。現在同プロジェクトに参画する企業の数は28に達している。

「プロジェクトに参加している農業女子メンバーの意見をくみつつ参画してくれる企業を探すために、営業活動もしています。農林水産省に20数年勤務して様々な仕事を担当してきましたが、営業活動をしたのは初めてです(笑)。プロジェクトがスタートした当初は声をかけても断られることもありましたが、徐々にコラボレーションの実績ができると、企業の方から企画を持ち込まれるケースも増えてきました。女性農業者を巡る現状やプロジェクトの趣旨、女性農業者のニーズなどを具体的に伝え、プロジェクトに参画してもらえないかと企業に提案しています」(久保氏)

農業女子が目指すコラボレーション出所:農林水産省の資料を基に作成

農業女子プロジェクトの商品開発例

1. 女性にうれしい装備とボディーカラーの「農業女子パック」を
ダイハツ工業の「ハイゼットトラック」に設定

2. 女性でも乗りやすい井関農機のトラクター「しろプチ」を開発

3. 「農業女子おすみつきインナー」をワコールと開発

これらの商品やサービスを実現するに当たって、参画する企業・機関は農業女子と意見交換しながら開発を進める。28社中、参画してから日が浅い2社を除く26社で商品やサービスの開発、提供、ワークショップの開催などを行っており、プロジェクトの成果が出ているといえる。2016年11月から新たに参画した2社でも新たな商品開発を検討している。

農業女子プロジェクトに参加する意義について、立ち上げ期から参加している埼玉県入間市の貫井香織氏は、全国の女性農業者たちとのつながりが農業ビジネスの展開にプラスになる点を挙げる。貫井氏は、PR会社などの勤務を経て、29歳から家業のしいたけと茶葉の栽培に従事するようになった。前職の経験を生かして販路を拡大しフランスにも輸出。2017年1月には香港の百貨店で「日本農業女子フェアin香港」を主催した。その際、一緒に出品するメンバーを農業女子メンバーから募るなど、農業女子プロジェクト活動から得たネットワークを活用している。

農業女子プロジェクトは2016年11月から、東京農業大学(東京都世田谷区、ほか)と蒲田女子高等学校(東京都大田区)と連携し、未来の農業女子を育成する“チームはぐくみ”にも取り組みだした。「女性農業者が活躍する姿を若い女性に知ってもらうことで、職業の選択肢に「農業」が加わるような活動を展開していきたいです」と久保氏は語る。