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ロボット異業種連携

ロボットのある暮らしで県民の「いのち」を守る
さがみロボット産業特区が生み出すエコシステム

2017年3月16日

規制緩和などを通じて産業の強化や地域活性化を目指す「総合特区」。その中に「ロボット」を冠した特区がある。神奈川県で実施している「さがみロボット産業特区」がそれだ。神奈川県と県中央部の自治体が参加した特区で、住民の生活を支援するロボットの実用化と普及を目指している。

写真:人型コミュニケーションロボット「PALRO(パルロ)」(富士ソフト株式会社)。介護予防のための認知機能・身体機能の向上に寄与する運動プログラムを搭載した。

地域に閉じることなく
エコシステムを創生

さがみロボット産業特区が対象とするエリアは、相模原市、平塚市、藤沢市、茅ヶ崎市、厚木市、大和市、伊勢原市、海老名市、座間市、綾瀬市、寒川町、愛川町の10市2町。県内中央部を南北に走る「さがみ縦貫道路」の沿線地域でもあり、「さがみ」の名称を付けた。

この、さがみロボット産業特区の特徴は、「生活支援」のためのロボットを、「実用化」することを主眼としている点にある。産業用ロボットなどは対象外であり、またロボットの基礎的な技術を研究するのではない。暮らしにかかわる課題を、ロボットの実用化、普及の推進により解決しようという取り組みだ。

神奈川県
産業労働局産業部 産業振興課
さがみロボット産業特区グループ
グループリーダー
品川浩太郎氏

さがみロボット産業特区は、神奈川県の産業労働局産業部産業振興課が担当する。同課でさがみロボット産業特区グループのグループリーダーを務める品川浩太郎氏は、取り組みの狙いをこう語る。

「特区の目標は、『生活支援ロボットの実用化を通じた地域の安全・安心の実現』です。神奈川県では政策課題として、県民の『いのち』を守ることを掲げています。高齢化の進展による介護や医療の問題、切迫する自然災害への対応に、ロボットが活用できると考えたためです」。特区の指定は2013年、今年で5年目に入る取り組みである。

取り組みについて、品川氏はこんな説明をしてくれた。「これまでもロボットはたくさん開発されていますが、なかなか生活の中で出会うことはありません。さがみロボット産業特区では、高齢化や災害からいのちを守るという政策課題に対して、ロボットの実用化を推進することで解決策を見出そうとしています。出口戦略として早期の実用化を目指し、その上でロボットの普及を支援するスタンスです」。目の前の政策課題をロボットによって解決するための具体的な施策を、特区で行っているのだ。

さがみロボット産業特区では研究開発・実証実験のための取り組みとして、3つの枠組みを用意している。「重点プロジェクト」「公募型ロボット実証実験」「オープンイノベーション」である。重点プロジェクトは、数年後に実用化が見えてきている開発について、実証を加速して実用化されるまで支援する複数年にわたる取り組みである。大企業を中心にしたプロジェクトも多い。公募型ロボット実証実験は単年ごとの取り組みで、さがみロボット産業特区を使って実証実験を実施したい人たちに手を上げてもらうもの。企業規模や産学の枠組みにとらわれず、神奈川県内だけでなく他県からの応募もある。最後のオープンイノベーションは、中小企業などを結びつけることで新しいロボットの開発と実用化を推進する施策である。

2016年度時点では、重点プロジェクトは24、単年型の公募型ロボット実証実験は13の案件が稼働している。公募は応募件数が年々増えており、「神奈川県でロボットの実証実験ができるということが、全国的に認知されてきているようです」(品川氏)とその効果は着実に現れてきているようだ。さがみロボット産業特区の実施から約4年で、実証実験を通じて製品化にこぎつけた案件は11に上る。「当初の計画では、特区の最終年度の2018年3月までに12件の商品化を目標にしていましたが、ほぼ達成が見えてきました。実証実験の数値目標は90件でしたけれど、すでに130件を超え目標を上回っています」(品川氏)

左上:パワーアシストハンド、手足のリハビリを支援するパワーアシストハンド・レッグ(株式会社エルエーピー)、右上:力覚伝達技術を応用した上肢リハビリテーション支援システム(横浜国立大学大学院)、左下:多くの日常生活動作を可能にする上肢筋電義手(横浜国立大学・東海大学医学部付属病院ほか)、右下:遠隔操作による超音波診断ロボット(早稲田大学)

これまでの成果としては、介護・医療関連で歩行支援ロボットや非接触・無拘束ベッド見守りシステム、災害対策では人工筋肉による遠隔建機操縦ロボットなどが実用化されている。2017年2月に開催された「『さがみロボット産業特区』ロボット展」では、医療、福祉、介護、コミュニケーション、災害対策、自動運転自動車など、40の実用化案件の成果が一堂に会した。年々出展は増え、ロボットの実用化への動きは加速しているように見える。会場では数多くのロボットが披露され、詰めかけた来場者は説明員の声に熱心に耳を傾けていた。

出展されたロボットの多くは、一般の人が「ロボット」として想像する形をしていない。
軽量の電動義手であったり、麻痺した手足を動かすリハビリ補助に使うパワーアシストハンド・レッグであったり、高齢者などの湯船への出入りを支援する浴室設置型の入浴支援ロボットなどが展示されていた。これらはひと目ではロボットと気づかないが、そっと私たちの生活を支援してくれる。

介護現場のコミュニケーションに人型ロボットを利用する例や、介護士などの力仕事をサポートするマッスルスーツ、VR(仮想現実)を使ってロボットを遠隔操作することで仮想体験ができるコミュニケーションロボットなども展示されていた。広義の「ロボット」が、私たちの生活に密着したところで使われる可能性が具体的に示されていたのである。

ニーズとシーズをつなぐ
オープンイノベーション

神奈川県
産業技術センター 企画部
研究開発連携室長
櫻井正己氏

さがみロボット産業特区のもう1つの取り組みが、オープンイノベーションである。生活支援や災害対策に役立つロボットの技術を持つ企業のシーズと、実際のニーズをマッチングさせて、新しいイノベーションを起こそうという取り組みだ。神奈川県産業技術センター企画部 研究開発連携室長の櫻井正己氏は、「産業技術センターが事務局となってロボット研究会を主催し、フォーラムで情報を共有できるようにしています」と語る。

企業や大学などの研究機関は「生活支援や災害対策といっても、何を支援、何を対策したらいいか分からないことが多い」と櫻井氏は言う。そこで、具体的なニーズを課題として提供することで、具体的な開発に共同で取り組んでもらう。例えば「ベッドから車椅子への移乗を簡単に」「建物内の安全な移動をアシスト」といったニーズを示し、複数の企業や研究機関が共同で研究開発に取り組むというものだ。「製品化まで進んだものに、火山活動対応ドローンがあります。火山の状況を調査するドローンは、腐食性ガスによって機体が腐食してしまいます。そこで、ドローンのメーカーと防蝕技術を持つ企業が手を組むことで、丸洗いしても壊れないドローンを作ることに成功しました」(櫻井氏)

左:人が近寄ることが困難な災害現場で活動するクローラ移動ロボット(株式会社移動ロボット研究所)、中:災害対応ロボット等に搭載する360度電子走査電波センサー(サクラテック株式会社)、右:人工筋肉による遠隔建機操縦ロボット アクティブ ロボ SAM:(コーワテック株式会社)

ロボット研究会には、約210の企業や研究機関が登録している。交流会やフォーラムには、多いときに100数十社、業態が限られるような内容の講演でも数十社が参加する。「神奈川県は面積では全国で5番目に小さい県ですが、人口は2番目に多い県です。製造業が盛んで、比較的地域による相違が少ないという特徴があります。ロボットの実用化を目指すことで、新しい産業を育てていくことも県の課題の1つです。可能性は県で示し、その課題に様々な企業や研究機関が連携して取り組むことで、オープンイノベーションのエコシステムがより活性化されると考えています」(品川氏)

とはいえ、品川氏はこんな表現で現状を評価する。「さがみロボット産業特区としては、目標を捉えた活動ができていると考えています。しかし、ロボットが至る所にいる環境はまだできていません。2018年3月で特区の5年の期間が終わりますが、これからも取り組みの形などは変化しつつも活動は続けていかなければと思います。県、市町、商工会・商工会議所、企業、大学、JAXAなどの研究機関といった多様なメンバーが手を取り合って、次の5年間に向けて取り組んでいく方針は決まっています」

普及のための手も打っている。住宅展示場のモデルハウスに様々なロボットを設置して、ロボットと暮らす体験をできるようにする取り組みや、ロボットを持って介護施設を巡回するロボット体験キャラバンといった取り組みも行っている。導入を検討する介護施設などに対しては、1カ月間無料でロボットを試せるモニター制度を用意した。また2016年度にはロボット導入支援補助金制度を創設し、特区で生まれたロボットの購入時に3分の1の費用を補助する支援も始めた。

人間とロボットが共生して、いのちを守る暮らしを実現する。そのために、さがみロボット産業特区では様々な企業や人々の間を取り持ち、相互連携を推進することで未来の世界をつむぎ出そうとしているのだ。

さがみロボット産業特区

http://sagamirobot.pref.kanagawa.jp/

神奈川県の中央部の10市2町を対象エリアとした特区。2013年2月に国から指定を受けプロジェクトが開始した。ロボットの実用化・商品化を目的としており、実証実験や認知度向上などの取り組みを行っている。