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イノベーションインタビュー

自宅のベランダにドローンがやってくる!?
物流、測量、災害対策――様々な分野で進むドローン実用化への取り組み

2017年3月22日

社会の様々な領域で活用の可能性が模索されている無人航空機、ドローン。ドローン本体にソフトウェア、ハードウェア、あるいは運用モデルなどを組み合わせる「ドローン×サムシング」によって「空の産業革命」が進んでいく――。千葉大学特別教授であり、自律制御システム研究所で自らドローンの開発と販売を手掛ける野波健蔵氏はそう話す。日本におけるドローンの第一人者である野波氏に、ドローンの未来予想図について語っていただいた。

省庁をまたいだ制度整備が進む

――ドローンを巡る最新の状況についてお聞かせいただけますか。

千葉大学特別教授/
自律制御システム研究所(ACSL)
代表取締役 最高経営責任者(CEO)
野波健蔵氏

野波氏 今年に入って、政府がドローンに関する法整備に本腰を入れ始めました。省庁をまたいで制度を整備して、ドローンが飛べる環境をつくる。その動きが今後本格化していくとみられます。私自身も先日、安倍晋三総理以下、大臣の皆さんとお話をして、意見を伝えてきました。

――ドローン飛行を可能にするには、どのようなハードルをクリアする必要があるのでしょうか。

野波氏 最も高いハードルは、私有地の上空を飛ぶための法整備です。現在、航空機は地権者の許可なく私有地の上空を飛んでもいいことになっています。それと同様の制度をドローンにも適用することが必要です。併せて、鉄道の上を飛ぶことができる制度も必要です。

一方、ドローンの認可と登録の仕組みをつくることも求められます。車の運転免許証同様、利用者はトレーニングを受けてライセンスを取り、所有するドローンを自治体などに登録する。そんな制度があと数年のうちにできていくと思われます。

また、ドローン自体の安全性も高めていかなければなりません。パラシュートやエアバッグを搭載し、万が一の事故の際に人や建物などに被害が及ばないようにする工夫が必要です。

――実用化の具体的な見通しをお聞かせください。

野波氏 4つの段階で進んでいく予定です。まずレベル1では、無人地帯を操縦者の目視内、つまり目に見える範囲内でドローンを飛ばします。これはほぼラジコンのようなイメージですね。次のレベル2では無人地帯を目視外まで飛ばします。このレベルではドローンが自律飛行することになります。さらにレベル3では、都会などの有人地帯を目視内で飛ばします。これを可能にするには、先に述べた法整備が必要になります。最後が、有人地帯を目視外まで飛ばすレベル4です。2020年ごろまでにレベル3の実用化を達成し、20年からレベル4の実証実験に入っていくというのが現在の見通しです。

ドローン活用が想定される6つの領域

ACSLの産業用ドローン「ACSL-PF1」

――ドローンはどのような分野で使われることになるのでしょうか。

野波氏 現在想定されている、あるいはすでに活用実績が出てきている分野は6つ、すなわち、農業、インフラ点検、警備、災害対応、測量、そして物流です。特に進んでいるのは農業と測量の分野です。

――農業ではどのように活用されるのですか。

野波氏 農薬散布がすぐに思いつく用途ですが、実はもっと先進的な使い方があります。現在私たちが新潟市と共同で取り組んでいる実証実験は、いわゆる「精密農業」にドローンを活用するというものです。私たちが製造したドローンにNTTドコモの携帯端末を搭載し、コシヒカリの水稲を撮影したデータをLTE回線でクラウドにアップし画像解析します。そのデータをベジタリアという農業ベンチャーが分析して評価し、生育状況を把握する。それがこの実証実験のモデルです。データ解析の結果を基に、最適な場所に最適な量の農薬や肥料を散布することができるし、病気が発見された場合には、薬を配合して農家に提供することもできる。そこまでを視野に入れたトータルソリューションをつくることを目指しています。

――自治体、ドローンメーカー、通信会社、ベンチャー企業のコラボレーションによって成立するソリューションということですね。これがビジネス化した場合、どのような収益モデルになるのでしょうか。

野波氏 調査料金を農家からいただくモデルになるでしょうね。さらに、農薬や肥料の散布などをドローンで行う場合は、そのサービス料金をいただくことになると思います。もちろん、農家自身がドローンを購入して自ら散布するケースもありうるでしょうし、JAなどがドローンをまとめて購入し、それをレンタルで提供するというモデルもありうるでしょう。

――測量では、どのような活用が想定されますか。

野波氏 国土交通省は現在、測量にICTを活用する「i-Construction(アイ・コンストラクション)」というコンセプトを掲げています。ドローンはそこにおける重要なツールになります。ドローンで自然物や建築物の写真を撮影し、それを3Dソフトで立体イメージにして細かな測定をしていく、というのが基本的な方法で、これが実現すれば、完全無人化による測量がごく当たり前のものになります。

――なるほど。インフラ点検や警備なども同様のドローンの活用法で無人化が図れそうですね。災害対応では、どのような使い方が想定されますか。

野波氏 災害時には4つの活用法が考えられます。1つ目は、被災地を空撮して災害の状況を把握するという使い方。2つ目は、被災者の捜索です。ドローンに搭載したスピーカーから被災者に呼びかけたり、マイクで声を拾ったりすることで、行方不明者の発見や迅速な人命救助の実現が可能になると考えられます。3つ目は、食料、医薬品、物資などの運搬。そして4つ目は、電波の中継基地としての活用です。

「出前」のようにドローンが荷物を届ける

――一般の人々にとって特に関心が高いのが、物流分野での活用だと思います。この分野での取り組みはどのくらい進んでいるのですか。

野波氏 先日、テレビのバラエティー番組で、長崎県の五島列島を舞台に、自律飛行するドローンで離島に物を届けるという世界初の実験を行いました。まず、福江島から赤島という島まで8.7kmを飛んで、そこで第1便を下ろし、さらに赤島から黄島までの5kmを飛んで第2便を下ろす。そして最後に黄島から福江島までの約14キロを戻ってくるという実験です。荷物を下ろす際には人手が必要でしたが、それ以外は完全無人による飛行に成功しました。あの実験で、離島におけるドローン活用のイメージが一気に具体化しましたね。物流に関しては、離島での利用が先行して進んでいくと考えられます。

――交通の便が悪いところの方が、ドローンの利便性は高いということですね。

野波氏 そういうことです。福江島から赤島までは定期船舶が1日2便出ているだけで、しかも片道25分もかかります。それに対し、ドローンはたった8分で到着します。また船の場合は、エンジンを動かすための大量の灯油が必要ですし、CO2も排出されます。一方のドローンでの運搬コストは、ドローンの減価償却費などを度外視すれば、往復で50円程度、充電の際の電気代のみです。もちろん、飛行時にCO2が出ることも一切ありません。

――都会での活用はどのようなイメージになるのでしょうか。

野波氏 現在、千葉特区での物流実験が進んでいます。ヤマトロジスティクス、佐川急便といった物流事業者、アマゾン、楽天などのEC(電子商取引)事業者、イオンなどとここで実証実験を進めながら、物流におけるドローンの実用化を目指しています。

ドローン活用によって大きく変わるのは、集荷と配送、つまり入り口と出口の部分であると考えられます。ドローンが個人宅に荷物を集荷に行き、配送センターに荷物を集め、地方などへの大量輸送に関してはトラックや鉄道などを使い、最後の配達の場面でトラックに積んであるドローンで各戸に荷物を運ぶ――。そんなイメージです。

――受け取る側はドローンが着陸できるポートを用意しておくのですか。

野波氏 そうです。集合住宅であれば、それぞれの家庭がベランダに小さなドローン用ポートを設置しておくことになるでしょう。衛星放送のアンテナのようなイメージですね。今後、不動産会社とのコラボレーションで、ドローン着陸用のスペースをあらかじめベランダに備えたマンションを開発していく予定です。一方、戸建て住宅では、庭や玄関先などにポートを設置することになるでしょう。

――アマゾンは、自らドローンを保有して直接配送するモデルを構想しています。

野波氏 まずは数千台のドローンの導入を見込んでいるようですね。現在のドローンの性能であれば、1回の充電で20kmのフライトが可能ですから、片道10km圏内であれば、センターからの直接配送ができます。それも出発から10分以内での到着が可能です。もちろん配送コストも大幅に削減できます。まるでおそば屋さんがスクーターで出前をするようにして、ドローンが無人で荷物を届ける。そんな風景が今後は当たり前のものになっていくと思います。

――各分野の専業のプレーヤーとのコラボレーションが、ドローン普及のカギとなりそうですね。

野波氏 そう思います。社会全体でドローン活用を本格化させていくには、私たちのようなメーカーと、それぞれの分野の知見を持つ事業者、さらには、ソリューションベンダー、業界団体、自治体などとの多様なコラボレーションが必須です。今後も、いろいろなコラボレーションの可能性を探っていきたいと思います。

野波健蔵(のなみ・けんぞう)

千葉大学特別教授。株式会社自律制御システム研究所 代表取締役 最高経営責任者(CEO)。1979年に東京都立大学大学院博士課程を修了後、千葉大学工学部機械工学科助手、米航空宇宙局(NASA)研究員・シニア研究員、千葉大学助教授などを経て、1994年に千葉大学教授に就任。2014年から現職。1980年代から自律制御ロボットの研究を開始し、1990年代半ばから紛争地に残された地雷除去や海底測量や送電線の高所点検作業向けの作業用ロボットを次々と開発する。2001年8月、日本で最初に小型無人ヘリの完全自律制御に成功。2005年からはマルチローターヘリの自律制御研究を本格化させ、大小様々な研究モデルの開発を行う。2013年11月、株式会社自律制御システム研究所を創業。