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マーケティング異業種連携

有田焼×ONE PIECE?――意外なコラボが互いの魅力を引き出す
融合するニッポンの伝統工芸(前編)

2016年11月16日

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江戸時代の初期、1616年に誕生したと伝えられる有田焼。日本を代表する伝統工芸品が創業400年という節目を迎えた2016年、国民的アニメとして誰もが知る「ONE PIECE(ワンピース)」とのコラボレーションを実現させた。手掛けたのは、有田焼のトップメーカーであり、創立137年の伝統を持つ香蘭社。「ONE PIECE×伝統工芸有田焼大皿」という、誰も想像し得なかった作品の誕生だ。

伝統の有田焼メーカーと
大ヒットアニメのコラボレーション

株式会社 香蘭社
美術品事業部 営業3グループ
海外事業担当 チーフマネジャー
終活カウンセラー
青山哲也氏

2015年の夏、まったくの偶然による出会いからそのコラボレーションは始まったという。大手玩具メーカーの株式会社バンダイで、キャラクターグッズを企画するライフ事業部の営業担当者が、商談帰りに銀座を歩いていた。ふと、ショーウインドーに何とも美しい和食器が並ぶ店舗を発見。さっそく入ってみると、華麗な赤絵や典雅な文様に彩られた磁器が並び、「宮内省御用達」の文字も目に飛び込んできた。スマートフォンを取り出し、店の名前を検索すると、どうやら有田焼のトップメーカーであるらしい。

「それが当社の銀座ショールームであり、外商事業部の責任者であった私がたまたま店にいたという偶然が重なったことが、すべての始まりでした」と、香蘭社の青山哲也氏は当時を振り返る。“営業ご担当の方とお話ししたい”という人物に応対してみると、相手はバンダイの営業担当者であると名乗った。

「実は、私自身がアニメや玩具が大好きだったため、初対面にもかかわらず話が盛り上がってしまって(笑)。ぜひコラボレーションをしましょうと意見が一致しました。そこから歴史に残る商品をつくるためのプロジェクトが急ピッチで進んでいったんです」(青山氏)

もちろん、障害がなかったわけではない。最初は別のキャラクターとのコラボレーションが模索されていたが、価格帯や品質に関して双方の落としどころが合わず、一度は企画自体がなくなりかけた。しかし、せっかくの出会いをみすみす逃したくはないという青山氏の熱意が伝わり、次に提案されたのが単行本も人気のテレビアニメ「ONE PIECE」とのコラボレーションだった。

「ONE PIECEの人気はもちろん知っていましたので、喜びと同時に緊張感もありました。今では玩具だけでなく、あらゆるジャンルでONE PIECEのキャラクターを生かしたグッズが生み出されています。そのため、香蘭社だからこその商品を提供しなければ、今回のコラボレーションに価値がなくなってしまう。同時に、香蘭社がアニメと組む意味もなくなると感じました」(青山氏)

茶器やカップ、小鉢などの食器類から花瓶や置物、ペンダントヘッドなど有田焼の可能性は無限だ。バンダイの関係者にも同社のすべての商品を見てもらい検討を重ねた結果、直径約280ミリに及ぶ大皿の飾り皿でコラボレーションを行うことが決定した。

「ONE PIECEと有田焼、双方の魅力を最大限に表現できるのは何かを第一に考えました。そして、大皿ならばデザインに様々な工夫が可能になり、迫力のある仕上がりになると確信できました。大作となるため価格も2万7000円と決して安くはない設定になりました。バンダイさんにとっても、キャラクターグッズというカテゴリーの中では異例の高額商品です。その価値のあるものをつくらなければと、改めて身の引き締まる思いでした」(青山氏)

大皿の絵柄には、ONE PIECEの物語の中でも新たな冒険の始まりが描かれる「新世界編」の幕開けを象徴したファンにはおなじみのシーンが選ばれた。白磁の全面にイラストを配し、群青や本青、キビ、紫などの盛り絵の具と金彩(きんだみ)によって有田焼特有の華やかな仕上がりになる。キャラクターである“麦わらの一味”の存在感と迫力を際立たせることは間違いなかった。

伝統の文様を着物の柄に取り入れ
香蘭社ならではの価値を生み出す

だが、青山氏はイラストそのままの絵付けをするだけでは満足ができなかった。それでは香蘭社だからこその価値が生み出せない。そこで、原画のデザインは変えることなく、キャラクターたちの着物の柄に香蘭社の文様を取り入れることを提案した。

それは、縁起がいいとされる動植物や物品などを描いた吉祥文様(きっしょうもんよう)という図柄をアレンジした瑞祥(ずいしょう)柄だった。才色兼備の美女であるナミの着物には、未来永劫への願いが託された“雲”、トナカイのチョッパーがかぶる頭巾には、家内安全を表す“ちどり”、コックのサンジの着物には、自然の美しさを意匠化した“流水”、といった具合だ。これらのデザインが加わることでイラストと有田焼がしっくりとなじみ、浮世絵風のタッチも実現した。一方で、ONE PIECEの世界観もたっぷりと盛り込む工夫が施された。

例えば、サメの形をした“シャークギター”がトレードマークのブルックには、浮世絵に合うよう琵琶を持たせつつ、そのモチーフはクジラに。力自慢のフランキーが持つ日本古来の結樽(ゆいだる)には、彼の通称をリスペクトして“鉄人”の文字が入れられている。

「真のコラボレーションがかなうデザインが決まり、いよいよ大皿の製作に入りました。職人たちの反応は、まず“驚き”の一色でしたね。何しろ有田焼は長い伝統を誇る工芸品です。そして当社も長い歴史を持つメーカーです。香蘭社は1879年、第8代深川栄左衛門により設立されましたが、初代深川栄左衛門が肥前有田で当社の前身となる磁器の製造を始めたのは元禄2年、1689年のことです。その香蘭社が現代の人気アニメキャラクターをデザインした大皿をつくるのですから、驚くのも無理はなかったでしょう」(青山氏)

しかし、伝統を守っていくためには新しいものへの挑戦も不可欠であると青山氏は言う。これまでにはなかったモノづくりに携わることで、新しい気づきを得ることもできる。技術を高め、そして守り継ぐことにもつながっていく。

「とはいえ、実際の商品づくりには、職人たちがこれまでに味わったことのない緊張と、気の遠くなるような精密な作業が待ち構えていました」(青山氏)

>> 後編:匠の技、冴える!「有田焼×ONE PIECE」が完成するまで はこちら

株式会社 香蘭社

佐賀県西松浦郡有田町幸平1-3-8
http://www.koransha.co.jp/

1689(元禄2)年、有田で磁器の製造を始める。有田磁器独特の白く硬い透明な生地の上に、 優雅な染め付けと華麗な赤絵を配した典雅な文様、欧州で愛好されている金銀彩(だみ)のルリ釉(ぐすり)、目にやさしく心がなごむグリーンシリーズ製品など多彩を極め「香蘭社スタイル」とも「香蘭社調」とも呼ばれ広く親しまれている。磁器製の碍子(がいし)を日本で最初につくった日本初の碍子メーカーでもある。

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