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マーケティング異業種連携

匠の技、冴える!「有田焼×ONE PIECE」が完成するまで
融合するニッポンの伝統工芸(後編)

2016年11月17日

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国民的人気アニメ「ONE PIECE(ワンピース)」と、創立137年の伝統を持つ有田焼のトップメーカー香蘭社によるコラボレーションでスタートした大皿の製作。原画そのままを磁器に描くだけでは過去にもあった商品と変わらず、コラボレーションの価値が薄れると考えた香蘭社の青山哲也氏は、香蘭社らしい色合いと文様をデザインに取り入れることを提案。しかし、完成までの道のりはとてつもなく険しかった。

>> 前編:有田焼×ONE PIECE?――意外なコラボが互いの魅力を引き出す はこちら

画期的な挑戦だからこそ
品質の追求に心血を注ぐ

株式会社 香蘭社
美術品事業部 営業3グループ
海外事業担当 チーフマネジャー
終活カウンセラー
青山哲也氏

香蘭社の職人30~40人を動員して始まった、「ONE PIECE×伝統工芸有田焼大皿」の製作。キャラクターの着物に古来の吉祥文様(きっしょうもんよう)をアレンジした瑞祥(ずいしょう)柄を描くというアイデアは、バンダイ含め、原作元、原作者の了承をすぐに得られたという。ほかにも、香蘭社からの様々な提案を快く受け入れてくれたことに感謝していると青山氏は話す。

「アニメのキャラクターに用いられる色の種類には、すべて指定があります。例えば、主人公ルフィのトレードマークでもある赤色の上着ひとつとっても、この種類の赤色を使うこと、と厳密に決められているものなのです。しかし、有田焼は製造工程の中で火を入れて焼き上げる作業があり、紙に塗った色のようにそのまま発色させることはできません。それこそが焼き物のよさであり、手づくりの風合いであることを理解していただきました」

さらに、香蘭社が持つ様々な色合いの盛り絵の具も採用され、佐賀県西松浦郡有田町の工場で、いよいよ製作が始まった。ONE PIECEという大人気アニメとコラボレーションする。アニメファンからも、そして有田焼の愛好家からも大きな注目が集まっていた。わずかなミスも許されない挑戦だったと青山氏は振り返る。

「画期的な挑戦というものは成功すれば大きな価値につながりますが、失敗すれば長い伝統の中で積み上げてきた信頼を簡単に失墜させます。そのため、通常の有田焼の製造工程よりも、はるかに厳しいチェック体制を整えました」

まずは、転写絵付けに用いられる転写紙の製作だ。同社で用いられる転写紙は厳しく検査され、わずかな絵の具の色むらや傷が見つかっただけで転写紙自体を破棄している。この作業をより厳しく行ったと言うのが職人の田嵜朝子さんだ。

「とにかく不良品を出してはいけないので、転写紙が出来上がった段階で1枚ずつ綿密に検査を行い、わずかでも異常があればすべて破棄しました。今回のデザインにはたくさんの色が使われており、また文様も多種多様にあったため、1枚の転写紙を検査するだけで通常の何倍も時間がかかりました。それでも、完全に一級品になると判断した転写紙だけを選び、品質を追求しました」

通常の製造工程を変えた部分もあったという。今回の大皿の縁には金線が施され、絵柄を引き締めるとともに豪華さも演出している。このようなデザインは他の大皿にもあるものだが、一般的には絵付け後、一番後の作業になる。ところが今回は、白磁の段階で金線を引く工程を取り入れた。

金線は通常、ろくろを使い、フリーハンドで筆を落として引かれるものだ。手作業のため、部位によってはほんのわずかに幅が異なることもあるが、それは目視では判断できないレベルだ。しかし今回は、それすらも防ぎたかったのだという。

「今回の絵柄は皿の全面、縁ぎりぎりにまでデザインがあります。そのため、わずかでも金線の幅が異なれば、大皿の雰囲気すべてが変わってしまうと考えました。しかし、絵柄を乗せた後では、金線の幅が均等かを見極めにくくなります。そこで、何も絵柄のない白磁の段階で金線を施し、寸分の狂いもないように配慮しました」と言うのは、職人の岩永春子さんだ。

職人たちの神経の使い方は、尋常ではなかったと青山氏も言う。同社は日ごろから品質管理が徹底され、有田焼のトップメーカーであり続けている。しかし、アニメとのコラボレーションという新しい挑戦だからこそ、別次元のこだわりを貫く必要があった。

「佐賀県の工場には、バンダイの担当者も見学に来られました。品質管理の徹底ぶりには、驚かれていたようです」(青山氏)

新たなモノづくりが
伝統を守る職人たちの自信につながる

転写紙を貼り付ける作業にも苦労が多かったという。緩いカーブを描く皿に、デザインが変形しないよう転写紙を貼り付けていくのは技術と経験の必要な作業だ。しかも今回はアニメのキャラクターがデザインされている。ほんのわずか狂いが生じただけで、表情が変わってしまう。想像以上に神経を使う作業だったと振り返るのは職人の前田貴子さんだ。

「転写紙を貼り付ける工程では、水出し・空気出しという作業が欠かせません。転写紙には空気穴がないため、この作業がうまくいかないと焼き上げたときに転写紙がはじけて、ほんのわずかですが傷のような部分ができてしまいます。アニメのキャラクターを絵柄に使った今回の作品では、これまで以上に細心の注意を払って作業を行いました。しかし、いざ窯からあがった皿を検査してみると、わずかに絵の具が乗っていない点が見つかることもあり、とてもショックでした。それでも、私自身がONE PIECEの大ファンだったため、大好きな作品の商品製作に関わることができたのは、職人としてとても大きな喜びでした」

職人の中にも販売部門の社員の中にも、ONE PIECEのファンは大勢いたという。青山氏が特にうれしかったことが、幾人もの社員たちが個人的にこの大皿を購入していたことだという。

「自分たちが手掛けた商品を自分で買う。納得のいく出来栄えであることの証しだと思いました。唯一無二のコラボレーションを達成できたことは、伝統を守り続ける当社にとっても社員一人ひとりの未来にとっても、大きな意味を持ちました」(青山氏)

アニメとのコラボレーションというこれまでにない取り組みを発表した当初は、同社の伝統と格式を愛してきた顧客から驚きと戸惑いの声が上がったことも事実だった。しかし、商品が完成した後は、そのクオリティーの高さに称賛の声が多数寄せられたそうだ。

「今後も様々な挑戦を行っていきますが、当社が目指すのはお客様を裏切らないモノづくりです。メーカーの役割は、お客様に求められる商品をつくり続けること。そのためにも攻めの姿勢で伝統を守り、技術面も精神面も磨いていきたいですね」(青山氏)

モノづくりへの姿勢が同じ方向を向いている企業とは、今後も積極的にコラボレーションを仕掛けていきたいという青山氏。さらに、食事の際に器も楽しむという日本の文化を広めるため、アジアを中心として世界中に同社の商品を展開していきたいと、展望を語ってくれた。

株式会社 香蘭社

佐賀県西松浦郡有田町幸平1-3-8
http://www.koransha.co.jp/

1689(元禄2)年、有田で磁器の製造を始める。有田磁器独特の白く硬い透明な生地の上に、 優雅な染め付けと華麗な赤絵を配した典雅な文様、欧州で愛好されている金銀彩(だみ)のルリ釉(ぐすり)、目にやさしく心がなごむグリーンシリーズ製品など多彩を極め「香蘭社スタイル」とも「香蘭社調」とも呼ばれ広く親しまれている。磁器製の碍子(がいし)を日本で最初につくった日本初の碍子メーカーでもある。

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