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イノベーション情報化社会

VR(仮想現実)
話題の「VR元年」、実用化に向けてフル加速

2016年11月9日

ビジネスエコシステムを語る上で欠かせない、着目すべきキーワードをピックアップし、そのトレンドの一端を紹介する本企画。今回は、「VR(Virtual Reality:仮想現実)」にスポットを当て、その動向を探ってみたい。

拡張する市場、ビジネスでの展開も本格化

「VR(Virtual Reality:仮想現実)」とは、現実のように感じられる環境を人工的につくり出すための技術を意味する。私たちが生きる世界の環境を構成する様々な要素を再現することにより、自分があたかもその世界の中に入り込んでいるかのような感覚を得られる仕組みの総称だ。

VRの概念自体は古くから存在している。例えば、星空を見上げて自分が宇宙空間を飛び回る姿を想像したり、推理小説を読みながら物語に入り込み、自分が名探偵になった気分を味わったりなどということも当てはまり、その基本的な考え方は人間が持つ普遍的なものといえるだろう。現在大きな注目を集めているVRは、1960年代に米国のアイバン・サザランド博士らが開発したHMD(Head Mounted Display:頭部装着ディスプレー)の登場が起源とされている。従来のディスプレーは画面から目を離すと直ちに現実世界に戻るのに対して、視界全体を覆い、ヘッドホンで音声を流して「視覚」と「聴覚」を制御するこの装置は、利用者を外の世界とは別の環境に導くものとして注目を集めた。

Oculus Rift

以来、VRを取り巻く環境は大きな変化を遂げている。当初は簡単な点と線の集まりであったディスプレーの画像は、コンピュータの能力向上によってリアルで臨場感あふれるものとなり、体の動きを感知するセンサー技術の発達は、ユーザーがその世界の中で活動しているという自覚を一層高めることにつながる。1986年、米航空宇宙局(NASA)はこの特性を活用し、宇宙飛行士の訓練用にVRで宇宙空間を再現する仕組みを開発した。また、ゲーム業界では1990年代にVRの技術を取り入れた製品が続々と登場し、一大ブームを巻き起こしている。

HTC Vive

2000年代にもVR関連技術の研究は進められてきたが、重要な節目となったのが2012年に初公開されたHMD「Oculus Rift」だ。小型軽量かつ低コストをうたったこの製品は大きな注目を集め、クラウドファンディングによる資金調達も話題となった。また、スマートフォンと紙製ビューワーを使った「Google Cardboard」や「ハコスコ」といった簡易なHMDが登場し、誰でも気軽にVR体験ができる環境が整いつつあることも普及を加速させている。そして2016年には「Oculus Rift」「HTC Vive」「PlayStation VR」の3製品が相次いで発売されたことから「VR元年」と呼ばれ、かつてない盛り上がりを見せている。

PlayStation VR

一方、VRと同様に注目されている言葉に「AR(Augmented Reality:拡張現実)」がある。これは仮想世界の一部を現実世界に投影して見るための技術で、スマートフォンやメガネ型端末で利用することができる。先ごろ大ヒットした「ポケモンGO」にはAR技術が使われており、地図(現実)とキャラクター(仮想)が融合する楽しさが表現された。

VRはエンターテインメント領域での話題が目立っていることから、ともすれば「ゲームの道具」と捉えられてしまう恐れがある。しかし、実際には様々な分野で活用するメリットがあり、ここにきてビジネスでの展開が本格化してきた。例えば、不動産分野では住宅空間シミュレーションにVRを導入し、建物内にいるような感覚でプレゼンテーションを行う仕組みが提供されている。また、医療分野では手術の模様をVRで再現し、学生の教育に役立てる試みが開始された。ほかにも人材育成や各種のトレーニング、製造業の商品開発など、実際に体験する機会が乏しい場面をカバーする有効な手段として期待が高まっている。

日本ユニシス・エクセリューションズの住宅空間シミュレーションシステム
「AIREALMEISTER」の操作ダイアログと出力イメージ

米国の投資銀行ゴールドマン・サックスは、VR/ARの市場規模が2025年には950億ドル(約10兆円)に達し、PC、スマートフォンに続く第3のプラットフォームとなる可能性を指摘した。ただし、これはあくまで予測で、実際にはまだ不確実な要素も残っている。今後VRがどれだけ実用的な役割を担えるか、さらにはユーザー自身がどのような活用法を見いだしていくのかといった、新時代の「使い方」を熟考する段階に来ているといえる。

VR/AR市場の市場規模予測出典:ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントの資料を基に作成(2016年以降は予測値)