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インタビュー経営戦略

一点特化で強みを伸ばし「組んでみたい」と言われる企業になる
第4次産業革命時代の新しいグローバル共創の形

2016年11月29日

ハーバード大学大学院でマイケル・E・ポーター教授の研究助手を務め、日本人女性初の経営学博士(DBA)を取得、2000年からは世界経済フォーラム(WEF)の年次総会“ダボス会議”でモデレーターを務める一橋大学名誉教授の石倉洋子氏。企業の事業戦略、競争力などを専門とし、グローバル人材の育成やダイバーシティの推進に尽力する同氏が、グローバル化を迫られる日本企業が目指すべき新しい生き残りの戦略を語る。

世界を席巻する反グローバリゼーションの波

――いかにグローバル化を成し遂げるかが長年の日本企業の課題となっていますが、ITの進化や社会情勢などに伴って、グローバルビジネス自体が大きく変容してきているように思います。近年のグローバリゼーションはどのように映っていますか。

トランプ新大統領の誕生に象徴されるように、世界では反グローバリゼーションの勢力が大変強くなってきています。トランプ氏がアピールし続けていたのは米国が第一、世界のことは二の次というメッセージでした。

一橋大学名誉教授
石倉洋子氏
取材場所:アカデミーヒルズ
六本木ライブラリー

英国の欧州連合(EU)脱退も同様ですが、いずれも大方の予想を覆す結果となり、今、どこで何が起こるか本当に分からない時代になっていると思います。どの国も保護主義に走り、貿易や移民流入への拒絶と、ポピュリズムの台頭が世界的な潮流になっています。

これは、自分たちの仕事がなくなったり、賃金が平準化されたりしたことが、グローバル化によって引き起こされたと考える人たちがかなりいるためですが、実際はAI(人工知能)やIoT(モノのインターネット)などによる第4次産業革命の中で大きな変化の1つです。貿易や移民を規制さえすれば国益を守れるというのは大きな誤解です。

国内の問題は、国際的な視点に立たないと解決できません。しかし、有権者にその視点は乏しい。政治家にとってもジレンマだと思いますが、これまで政治家やメディアは何もしてくれなかったという彼らの怒りが、国際情勢を動かすまでに至ったのだと思います。

企業が世界で戦っている一方で、国家は国益を考えた結果グローバルではなくなってしまった。国や地域単位で様々な規制が生まれ、企業と政府とのせめぎ合いが、ここ何年も続いています。今後もグローバル化がずっと進み続けるのかどうかについては、疑問を抱かざるを得ません。国ではなく、企業にこそ外交政策が必要だともいわれています。

――そのような情勢の中で、日本企業はグローバリゼーションをどのように捉えたらよいのでしょうか。

日本企業のグローバリゼーションには波があり、1980年代、90年代と、各年代においてそれぞれブームがありましたが、昔と明らかに違っているのはITの進化です。テクノロジーによって様々なコストが抑制され、情報は世界規模でつながっています。

かつて海外にモノを売るためには、現地へ行って売らなければなりませんでしたが、今ではどこからでも居ながらにして売ることができます。つまり、市場に国や地域の境界がなくなり、国内だけで戦うという考え方では立ち行かない時代になってきているということです。

しかも、日本は成熟市場であり、超高齢社会です。企業はいや応なくグローバリゼーションに向かわざる得ません。多くの企業は、その切羽詰まった状態に直面したままこう着状態が続いています。

日本企業の課題は人も技術も固定的であること

――なぜ日本企業のグローバリゼーションは長くこう着した状態のままなのでしょうか。

日本企業の課題は、人材も技術もとにかく所有して囲い込んで、内製化しようとする傾向が強く、非常に固定的であることです。プロジェクトごとに世界から優秀な人を引っ張ってくればいいのに、雇わないとダメという既成概念が邪魔をします。

また日本人は、この会社しかない、この仕事しかない、辞められないなどと、がんじがらめになっている人が多いと感じます。もっと労働市場は流動的であるべきですし、そうあれば過労死というような悲劇からも人材を守れるのではないでしょうか。

人生において、学び、働き、リタイアするという3つのステージモデルが基本的なスタイルと考えられていて、これが様々な制度のベースになっていますが、このモデルがすでに現実から乖離しているのです。

今や人生100年時代。65歳で退職した後30有余年をどうするのか。年金は出ないし、やることもない。私が参画している世界経済フォーラムのザ・フューチャー・オブ・ジョブズ(職の未来)という協議会では、これからは常に学び、複数のキャリアを持って、仕事もどんどん変わっていくものだよね、といった話題が度々出ていました。

しかし、社会の仕組み自体がこうした取り組みについてきていません。住宅を借りるにしても、クレジットカードをつくるにしても、組織に属していたり、勤続年数が長かったりするほうが有利になるようにできていて、フリーの立場の人には厳しい世の中です。世の中の仕組みが、「所属」していることに価値を置き過ぎていると思います。

企業はもっと柔軟に、働き方を選べるようにすべきです。在宅勤務もどんどん導入すればいい。特に、テクノロジーを標榜するIT企業でも在宅勤務の選択肢がほとんどないというのは、その名が泣くというものです。ただでさえエネルギーが足りないのに、なぜラッシュアワーの電車にわざわざ乗って、出社することが仕事の前提になっているのでしょうか。

柔軟な勤務形態を提供することで、女性や高齢者など、現状では様々な事情のためにフルタイムで勤務できない人も働くことができます。短時間で専門的スキルを生かせれば、人件費を抑えながら優秀な人材を登用でき、企業にとってもメリットになります。

――勤務体制の多様化は、企業と人相互にメリットがあるのにもかかわらず、ごく限られた企業でしか制度化が始まっていないのはなぜでしょうか。

多様な勤務体制下で仕事を評価することが特に難しいためです。ですが、評価はどこかで必ずしなければなりません。最初からうまくいくわけがないのですから、企業は腹をくくって、トライアル&エラーを繰り返して、時には痛い目に遭いながら評価方法を見いだしていくしかないのです。

新しいテクノロジーによって、国や地域だけでなく、あらゆる境界がどんどんなくなってきています。例えばUberのようなシェアリングエコノミーが象徴です。自分のものと人のものとの境界がなくなり、車を個人で所有する必要がなくなりました。自動車ではなく、その本質であるモビリティがあればいいのです。また、いずれAIが人間の能力を超え、シンギュラリティー(技術的特異点)によって人間と機械の境界もなくなるかもしれません。

働き方、学び方、組織のつくり方、海外との付き合い方など、新しいテクノロジーが、社会全体を変えています。なによりスピード感は恐ろしいほどに違います。AIも、昔と違ってこちらがロジックをつくらなくても、機械学習により自ら学ぶことができるようになっています。

世の中が大きく変わっていて、これまでの常識が全く通用しないということを、トップがもっと認識しなければいけないと思います。このままいけば何とかなるという認識では、いずれ取り残されてしまうでしょう。もうすでに、ビジネスの土俵は変わってしまったのです。

コアコンピタンスを見極めその一点を強化する

――新しい土俵で生き残るために、企業はどう変わるべきなのでしょうか。

希望的観測ではなく、一点に絞り込んだ自社の本当の企業価値を理解し、グローバルレベルで評価を得られるように強化することだと思います。テクノロジーの進化によって、誰とでも簡単につながれるようになり、スピードは加速する一方です。国や業界を超えて世界とつながっている中で、自社の特技を見いだし、多様な組織や人と協働する経験を積む必要があります。

少し以前に産業クラスター構想が注目されましたね。周囲と共同でプロジェクトを行い地域を活性化するという点でエコシステムと共通点がありましたが、限られた地域内で内向き思考が強くなり、進化していかなかったため、この政策は結局うまく機能しませんでした。

複数の様々なことに優れているというのは、もはや特技ではありません。生き残りが厳しい競争社会の中では、圧倒的な特技があった上で、他の企業から「あそこと組んでみたい」と思われるような評価を得る必要があります。

そのような一点特化の特技を持ち、そのほかはそれぞれの分野を特技とする別の企業が担うことでエコシステムは成立します。地域に集中することだけにこだわらず、グローバルレベルで考え、世界変化に応じて、協働する相手を見直すことも今は必要だと思います。変化のスピードは非常に速く、ついこの前まで価値があったことでも、見向きもされなくなったりします。その都度柔軟に組み替えができるシステムでないと、スピードにも変化にもついていけません。

エコシステムにおける企業同士の関係はあくまで並列です。個人でも同じことがいえます。スキルをオンラインなどで磨いて、どんどん新しいことを学び、それをプロジェクトで実践していけばいい。1人ではできないことを実践できる場所を提供するのも、企業の役割だと思います。

――自社が硬直化していないか、老化していないかを見極めるポイントはありますか。また、その場合にはどこから手を打つべきなのでしょうか。

ビジネスは、価値を提供しないため、市場から見向きされなくなって、もうからなくなったら老化しているということなのでしょうね。そういった意味では、民間企業はフェアだと思います。結果に直結していますから。まさか潰れるはずがないだろうと思われていた日本企業が、海外の企業の登場で倒産したかと思えば、今度はその海外企業が苦戦を強いられるなど、次から次へと目まぐるしく変化していきます。

トップリーダーが登場すると、その人物の話が書籍や記事になりますが、尋ねていることは昔のことばかりです。それをうのみにして昔の幻想に乗っかってしまうと、世の中から外れてしまいます。リーダーはかつての幻想にあぐらをかかずに、現実をちゃんと見抜くことが大事です。

もし企業が活力を失っていて自分がトップならば、まずは自分が辞めることです。トップが代われば企業は変わります。このままではいけないと思っている人は、様々な階層にいます。そういった人たちをうまく盛り立てていく必要があります。

企業が内向きになって、自社のことや、同じ業界のことしか目に入らなくなると、外で何が起きているかが分からなくなります。日本企業は、技術やノウハウを取られてしまうことを恐れて、オープンにすることに強い抵抗感を抱く傾向があります。

しかし、何もかも守ればいいと思って囲い込もうとするのは、自社の強みを本当に分かっていないということの裏返しなのではないでしょうか。自社の強みを見抜いて、将来に向けて腹をくくって決断すること。それが今求められているのではないでしょうか。

石倉洋子(いしくら・ようこ)

一橋大学名誉教授。専門は、経営戦略、競争力、グローバル人材育成。バージニア大学大学院経営学修士(MBA)、ハーバード大学大学院 経営学博士(DBA)。マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て青山学院大学国際政治経済学部教授。一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授。慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科教授。日清食品ホールディングス株式会社、双日株式会社、株式会社資生堂において社外取締役。ダボス会議を主催する世界経済フォーラムのGlobal Agenda Council on the Future of Jobsメンバー。主な著書に、『戦略シフト』(東洋経済新報社)、『日本の産業クラスター戦略』(共著、有斐閣)、『戦略経営論』(訳、東洋経済新報社)、『グローバルキャリア』(東洋経済新報社)、『世界級キャリアのつくり方』(共著、東洋経済新報社)、『世界で活躍する人が大切にしている小さな心がけ』(日経BP社)など。