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地域地方創生異業種連携

「公民連携」で新たな価値創出を狙う横浜市の挑戦
8年間で230件以上の連携を実現。成長し続ける「共創フロント」

2016年12月19日

370万人以上の人口を抱える横浜市は、8年以上前から「公民連携」に本格的に取り組んでいる。行政と民間が互いのリソースやノウハウなどを持ち寄ることで、社会課題の解決を図るとともに新たな価値づくりにつなげるという「共創」は、横浜市の戦略の根底でもある。その要に位置しているのが、同市政策局に設置された共創推進室である。

横浜市の戦略の根底に「公民連携」を位置付ける

370万人余りの人口を抱える横浜市は、国内最大の基礎自治体である。それだけに、一つひとつの課題の規模も大きい。横浜市はその基本政策ともいえる「横浜市中期4か年計画 2014~2017」において、少子高齢化や生産年齢人口の減少、都市インフラ・既存住宅の老朽化などの「解決すべき課題」を示す一方、「さらなる飛躍に向けたチャンス」もあると述べている。

横浜市 政策局共創推進室
共創推進課長
梅澤厚也氏

地域の課題解決、チャンスを生かした成長戦略を実現する上でのキーワードが「公民連携」である。横浜市 政策局共創推進室 共創推進課長の梅澤厚也氏はこう説明する。「あらゆる政策の底流に、共創・公民連携という考え方が据えられています。税財源だけ、行政の力だけで課題を解決しようとしても限界があります。行政と民間が互いの資源やノウハウ、知恵を持ち寄ることで、市民や企業にとって望ましい環境づくりを目指しています」

前述の中期計画は約180ページの冊子にまとめられている。その冊子の40カ所以上に「公民連携」という言葉が登場する。梅澤氏の言うように、このコンセプトは横浜の戦略の根幹だ。共創推進室は、公民連携の要としての役割を担っている。

「共創推進室の前身は、2008年に設置された共創推進事業本部です。当時、原則として3年以内に何らかの成果を達成しようということで、いくつかの事業本部が立ち上がりました。共創推進事業本部はその一つで、公民連携で様々な事業を推進するためのキーステーションと位置付けられました。3年間で所期の目標を達成して解散した事業本部もありますが、共創推進事業本部については『今後とも継続すべき』という決定がなされ、政策局内の室として存続することになりました」と梅澤氏は語る。

機会均等・公平性を担保する仕組みを用意

横浜市 政策局共創推進室
共創推進課担当課長
内田義人氏

「共創」という言葉は、最近では企業の間でも広く使われるようになった。横浜市の組織名に共創が使われたのが2008年。民間と行政を含めて、横浜市はいち早くこうした考え方を導入した組織だろう。

「社会課題に対してもっぱら公的機関が対応する時代が続く中で、国レベルでは、小泉政権時代に『官から民へ』という流れが強まり、横浜市では、その流れとともに公民が連携しつつ相乗効果を生み出そうという考え方が広がりました。」と横浜市 政策局共創推進室 共創推進課担当課長の内田義人氏は言う。

共創推進室の守備範囲は広い。主要な役割の一つが、民間からの提案を市役所の担当部局や区などにつなぐこと。いわばハブ機能として、同室内には「共創フロント」が置かれている。「正直に言うと、公民連携という新しい取り組みに対して、当初は役所内に警戒感もありました。そんな心理的な『壁』を解きほぐしながら、担当部門につなぐのも共創推進室の仕事です。民間の方々と伴走しながら、一緒に走り出せるところまでを共創フロントでサポートしています」と梅澤氏は言う。

「共創フロント」による公民連携のイメージ資料:横浜市

共創フロントはすでに多数の実績を生み出している。2008~15年度の8年間で、民間からの提案件数は541に達し、うち231件が実現した。小さな成果を積み重ねることで役所内の警戒感は薄れ、「徐々に共創マインドが育ってきました」と梅澤氏は言う。ほかの部局の成果を見れば、「ウチでも何かやろう」という意識も芽生えてくる。

公民連携を進める上での大きな課題は、こうした警戒感や心理的な壁だった。「民間企業のお金もうけに行政が協力していいのか」「なぜA社と組むのか。B社ではいけないのか」といった公平性に関わる問いに、行政としては答える必要がある。「その壁を突破するためにつくられたのが、共創フロントです。共創フロントはいつでも投稿できるWebサイトを用意し、『誰でも、提案を寄せてください』と呼びかけています。こうして、機会均等や公平性を担保しているのです。また、先に提案を実現した企業が、特権的な立場を得ることもありません。ある企業の提案が実を結んだ後に、ライバル企業の別の提案が採用されることもあります」と梅澤氏は説明する。

「ポケモン」や「プリキュア」と連携イベントでWin-Winを実現

共創フロントの取り組みの一例が、株式会社ポケモンとのコラボレーションにより、2016年8月に実施された「ピカチュウ大量発生チュウ!」というイベントだ。みなとみらい21地区を中心に、同社が企画した屋外型イベントに横浜市が協力。子供と大人が楽しめるイベントは、ファミリー層や海外からの集客につながった。公平性の観点で補足すると、エリアや時期などの軸をずらすことによってポケモン以外のコンテンツにも機会が用意されている。それが、「他のコンテンツではなく、なぜポケモンなのか」という問いへの答えだ。

東映のアニメーション映画との連携企画もあった。同社は2012年3月に公開した「プリキュアオールスターズ」シリーズの映画関連イベントを横浜市で開催するとともに、「かかりつけ医・小児救急電話相談ダイヤル」(#7119:現在は「救急電話相談」として全年齢が対象)の告知カードを12万枚作製。小児科医院などで配布したという。

「横浜市が相談ダイヤルを新設したのは2011年の11月ですが、通常の広報手段ではなかなか知ってもらえないという課題がありました。映画のキャラクター付きの名刺大カードを配布することでより多くの市民に受け取ってもらえ、認知が広がりました。一方、東映にとっては普段はアクセスしにくい小児科医院などにカードを置くことで、効果的なプロモーションができたのではないかと思います」(梅澤氏)

一つひとつは小さな取り組みのように見えるが、「Win-Win」の成果が増えれば大きな潮流が生まれる。前述した市役所内の雰囲気や文化へのインパクトだけでなく、企業やNPO、大学などに埋もれていた外部の知恵も集まりやすくなる。例えば、新しいアイデアや技術を実地で試したい企業が、「横浜市に話を持っていけば、聞いてもらえるのではないか」と思ってくれるかもしれない。

共創フロントには、そんな案件が次々に集まってくる。公民連携というエコシステムのサイクルは順調に回りながら、今も成長を続けている。

企業や市民との「対話」を通じてよりよい価値の実現を目指す

共創推進室の役割は、共創フロントだけではない。ほかにも、大きく5つの柱がある。「共創フォーラム」「PFI(Private Finance Initiative:民間資金を活用した社会資本整備)」「公有資産の有効活用」「広告・ネーミングライツ」「指定管理者制度」である。

共創フォーラムは、市役所と企業、人が出会い、新たな価値創出のきっかけをつくる場である。「シンポジウム形式の大きなイベントとして、様々なテーマで年に1~2回『オープンフォーラム』を開催しています。加えて、比較的小規模な対話の場として『共創ラボ』を設けています。共創ラボの次回のテーマは健康経営。健康経営を志向する企業だけでなく、健康経営に役立つサービスを提供する企業にも集まってもらう予定です。横浜市からは共創推進室の属する政策局だけでなく、健康福祉局や経済局なども参加します」と内田氏は説明する。

内田氏の言う「対話」は、横浜市の公民連携を支える重要なキーワードだ。「共創フロントや共創フォーラムでも実践していることですが、私たちは企業や市民との対話を非常に重視しています」と内田氏は強調する。

横浜市が目指す「共創」の姿資料:横浜市

対話はどのような価値につながっているのか。分かりやすい例は、公有資産の有効活用だろう。土地などの公有資産が不要になった場合、自治体は売却や貸し出しなどの処分を行う。公正な手続きが求められるのは当然だが、処分後に適切な利用が行われるかどうかも重要な視点だ。処分後の利用法などについては、公募条件などで定められる。「その土地をどのように活用すれば、地域に役立つのか。また、売却すべきか、貸し出したほうがいいのか。こうした諸条件について、以前はすべてを役所の中で詰めていました。しかし、地域のニーズやビジネスの動向について、私たちが十分に情報を持っているかというと、必ずしもそうではありません」(内田氏)

業務に関係する企業などに事前に話を聞いて、公募条件を検討すると、「あの企業には聞いたのに、ウチには聞きに来ないのか」という人が現れたりする。「行政が決める」から「対話」への転換は、こうした課題に対する解決アプローチにもなる。最大のメリットはもちろん、地域ニーズに合致したプロジェクトが生まれやすいことだ。

企業との対話の場としてのサウンディング調査

公有資産を有効活用する際、横浜市はサウンディング調査という手法を導入している。土地などの活用を検討する早い段階で、活用方法について事業者から広く意見を聞き、提案を受けるというものだ。

「まず、プレスリリースなどで特定の資産の処分を発表し、透明性を確保した上で関心を持つ事業者との対話を始めます。対話の中では、こちらから『保育所が欲しい』とか『高齢者向けの交流スペースが欲しい』といった地域の要望を出し、事業者から具体的な提案を示してもらいます。こうした対話を通じて、市としては民間の受け止め方、その感触をつかむことができます」と内田氏は言う。

例えば横浜市が一方的に「定員100人以上の保育所を設置すること」といった公募条件を決めた場合、すべての事業者が「過大な要求」と考えれば入札は不調に終わるだろう。仮に「80人の保育所なら可能」という事業者がいたとしても、不調は不調である。対話を通じて民間の“相場観”を知ることで、最適な落としどころに近づけることができる。

横浜市が先鞭をつけたサウンディング調査は、その後、全国の自治体に広がりつつある。「他の自治体の幹部や担当者が話を聞きに訪れることもありますし、先方からの要望でこちらから出向いて説明する機会も多くあります」と梅澤氏。多くの自治体で経験が蓄積されれば、やがて横浜市が学ぶべき新たな知見も生まれるはずだ。

トップランナーとしての期待を背負い試行錯誤しながら前進

PFIについては、全国の様々な自治体が取り組んでいる。ただ、それほど件数が多くないので、担当部門にノウハウがたまりにくい。そこで、横浜市では外部有識者で構成される審査委員会を共創推進室が一括して担当する仕組みを採用した。

他の自治体では、事業ごとに担当チームを設置するケースが多い。その場合、時間がかかったり効率が低下したりする懸念がある。これに対して、横浜市では共創推進室にPFI案件を集中させることで、業務の効率化とスピードアップを図っている。

日産スタジアムのWebサイト

広告・ネーミングライツに関する取り組みとしては、「日産スタジアム」の例がよく知られている。「横浜国際総合競技場」としてオープンした横浜市所有の施設だが、今では日産の名を冠して呼ばれることが多くなった。広告やネーミングライツで稼ぐという取り組みも、横浜市が早い時期から実践してきたことである。

最後に、指定管理者制度について。ここでもワンストップ化による利便性確保の観点から、共創推進室が窓口役を担っている。その上で、実際の施設管理については所管の担当部門が担うという2階建ての仕組みだ。その1階部分を共創推進室が担うことが、業務の効率化につながる。指定管理者制度運用ガイドラインによる運用の基準づくりなど、共通業務を共創推進室に集約することができるからだ。

税財源だけに頼っていたのでは、山積する社会課題を解決することは難しい時代。横浜市だけでなく、全国の自治体、あるいは政府レベルでも今後、公民連携はますます普及すると考えられる。横浜市はそのトップランナーとしての役割も期待されている。

「いかに民間の力を活用するか。結局のところは、いろいろなやり方を試していくしかないでしょう。よりよい公共サービスにつなげるために、大事なのはやはり対話です。行政は民間のことを、民間は行政のことを、実はあまりよく分かっていません。対話を通じて互いの強みや弱みを知ることで、新しいアイデアや解決策が生まれてくるはず。そのための情報発信や場づくりに、今後とも注力していきたいと考えています」と梅澤氏は言う。

トップランナーには、試行錯誤も多いもの。試行錯誤を許容する文化も、横浜市には育ちつつあるように見える。自治体だけでなく、多くの企業にとっても、横浜市のチャレンジから学べることは少なくないはずだ。